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難病特集:正常圧水頭症
       


正常圧水頭症に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
関連病気:



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‖はじめに


超高齢社会を迎えつつある我が国においては、認知症患者の数が年々増加してきており、その数は現在約250万人に迫るとされ、今後更に増え続けると推定されています。介護にたずさわる患者家族の身体的経済的負担、さらには介護保険を含めた医療費などの社会が負うべき責任の増大が大きな問題となってきている。一方で、認知症と診断された患者のなかに、外科的治療によって症状の改善をみる “治療可能な認知症”として注目されているのが特発性正常圧水頭症 (INPH)である。日本正常圧水頭症研究会から2004年5月に「特発性正常圧水頭症診療ガイドライン」が初刊として発行された。ガイドラインの発表後,iNPHの認知度は格段に上がり,全国のシャント術件数も着実に増加し手きてい。世界的にも臨床研究や基礎研究は拡大してきており、日本ではSINPHONIという多施設共同前向き臨床試験の成果も得られ、世界的にエビデンスレベルの高い論文も増加した。そこで日本正常圧水頭症研究会は厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「正常圧水頭症の疫学病態と治療に関する研究」班(班長:新井一 順天堂大学医学部教授)との共同事業として2012年7月に改訂版ガイドラインとして発刊の運びとなった。新ガイドラインの紹介も含め情報を提供する。


‖歴史的背景と今日の問題点


正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus、以下NPHと略す)は決して新しい疾患ではなく、その歴史は1965年米国の医師アダムス、ハーキムらの報告にさかのぼる。彼らはこの報告のなかで、精神活動の低下(痴呆症状)、歩行障害、尿失禁を呈する高齢者のうち、著明な脳室拡大を認めるにもかかわらず、腰椎穿刺で測定した脳脊髄圧が180mmH2O以下と比較的低く、しかし、髄液短絡術(シャント手術)を行うと上記の症状が著明に改善する患者のいることを指摘した。当時より、何らかの原因で髄液の循環不全が生じ、その結果NPHが発症すると考えられているが、その原因が明らかな場合とそうでない場合がある。原因不明のものを特発性NPH、原因が明らかなものを続発性NPHと呼ぶ。続発性NPHの原因としては、クモ膜下出血、頭部外傷、髄膜炎などがあげられる。これらの続発性NPHは、破裂脳動脈瘤によるクモ膜下出血後のNPHの頻度が高いが、髄液循環障害として認識され、またシャント手術の治療予後も良好である。また、特発性NPHの患者では、最初に極軽度のくも膜炎が起こり、それに続発するクモ膜の癒着や肥厚さらには線維化が髄液循環障害を惹起し、水頭症が発生するものと考えられてきた。
以来、NPHは“治療可能な認知症”として注目されるようになったが、一方で精神活動の低下、歩行障害、尿失禁は老人性痴呆にもみられる症状であるため、老人性認知症とNPHをいかに鑑別するかが問題となってきた。老人性認知症の患者でも、脳萎縮にともなって脳室は拡大してくるとされるが、シャント手術を行っても症状が改善することはない。したがって、老人性痴呆とNPHを鑑別すること、すなわちシャント手術が痴呆症状の改善に有効かどうか判定することは意外に難しく、事実過去においてはシャント手術の適応のない症例に手術が行われたという事例もあった。このような問題点を解決すべく、2004年我が国と米国において本疾患に関する診断治療のガイドラインが相次いで刊行された。日本の診療ガイドラインではCT, MRI画像で高位円蓋部,正中部のクモ膜下腔狭小化を特徴とする画像所見を目安に鑑別すると診断が得られやすい。と可及的に非侵襲的な腰椎穿刺による髄液排除試験 (tap test) による診断を、欧米のものでは脳室拡大と持続ドレナージテストを推奨する等違いも見られている。




‖頻度


特発性NPHの好発年齢は60歳以降であり、発生頻度ではやや男性に多いようである。最近の研究論文において、その発症頻度も徐々に明瞭になってきている。一般的に認知症患者は国内に現在、250万人にせまると言われ、これまで認知症のうち『iNPH』である患者は5%(約12.5万人)と考えられていました。MRIを用いた、ある地域疫学調査の結果、『iNPH』が疑われる人の有病率は高齢者(65歳以上)の0.51~2.9(1.1)%であると推定されており、日本人口の高齢化率(約22%)で換算すると低く見積もっても約31万人(人口10万人あたり約250人)の方が罹患している可能性があると言える。また、症候の有無に関係なく地域住民の対象者全てに脳MRI 検査を行って画像上iNPH が疑われる住民(Asymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI : AVIM)を抽出するという方法で,4~8 年追跡すると25%に認知症や歩行障害が出現,つまりiNPHが疑われる症候を呈するようになったことからAVIM はiNPH の重要なリスクファクターである可能性があることも指摘されている。また、『iNPH』の有病率は、よく知られた疾患である認知症や歩行障害を呈するアルツハイマー病の有病率高齢者の約4%(人口10万人あたり1,000人)やパーキンソン病の有病率高齢者の0.4%~0.7%(人口10万人あたり100~150人)の間に位置すると推定されている。

Iseki C, Kawanami T, Nagasawa H, et al. Asymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI (AVIM) in the elderly: A prospective study in a Japanese population. J Neurol Sci. 2009 Feb;277(1-2):54-7.


‖症状


NPHでは、精神活動の低下(痴呆)、歩行障害、尿失禁の三つが主症状(三徴候)とされている。初期の段階では物忘れ、次いで自発性の低下、無関心、日常動作の緩慢化などがみられ、さらに進行すると無言無動といった状態になる。歩行障害はNPHの初発症状であったり、95%近くの多くの症例で確認され、最もADLに関わる症状と考えられる。その歩行障害は歩幅の減少 (petit-pas)、足の挙上低下 (magnet gait)、歩幅の拡大 (broad-based gait) が3代特徴とされる。歩行はゆっくりとなり、起立時や方向転換時には特に不安定となる。症状が進行すると、立位や座位を保てなくなる。尿失禁は、三徴候のなかで最も遅くに出現するとされ、臨床的には切迫性尿失禁を認める。



‖SINPHONIの成果と日本の現状

2004年のiNPH診療ガイドラインの検証を目的とし、日本では2004から2006にわたり前向き多施設共同研究(SINPHONI)が行われiNPHに対する脳室腹腔短絡術 (VP shunt)の有効性が確認された。本研究ではMRI coronal画像における tight high-convexityを適格条件とし、CHPVによる術後管理を行い、術後1年のmRSをPrimary endpointとし、改善例をFavorable outcome (FO)と判定した。Secondary endpointとしてshunt responder (SR)やINPH Grading scale (GS), 3m up-and-go test (TUG) , MMSE、CBF,CTC、Tap testなどを検討している。解析対称は100症例でTap test陽性率は89% て?あり、mRSやGS, TUG, MMSEいずれの評価では術後3ヶ月以降より1年間は統計学的有意に効果が確認された。FOは69%、definite iNPHであるSRは80%であった。mRSにおいてNon-responderであってもGSによる評価では89 %がSRとして判断された(図3)。重篤な有害事象 (Serious adverse events: SAE)は15例において確認されも、4例は回復可能であった。SINPHONIはiNPHに対して世界的にも過去最大規模の臨床試験であり、また、上記各種のendpointに関わる成績も得られており、各論文を参考されたい。日本のINPH診療ガイドラインの妥当性が検証されるとともに、iNPHの特徴的画像所見をDESHとして集約可能であることを提案している。


‖INPH診療ガイドライン2011


日本ではSINPHONIの成績を受けて2011年7月にiNPHの診療ガイドラインの改訂版が発刊された。その概略を提示する、
三徴候のいずれか一つあるいは複数を認め、頭部CTやMRIで脳室の拡大(Evans index 0.3以上)やiNPHとしての特徴的な画像所見が確認されればNPHを疑うことになるが、NPHでは腰椎穿刺で測定した脳脊髄圧は200mmH2O以下と正常範囲である。また、特発性NPHでは、髄液の細胞数や蛋白などの所見に異常を認めることはない。脳室拡大に関しては、老人性痴呆でも脳萎縮にともなって脳室が拡大してくるので、NPHとの鑑別が問題になってくる。そこで、腰椎穿刺により約20~40mlの髄液を排除して、歩行障害などの症状の改善がするかどうかを試す検査(髄液排除試験あるいは髄液タップテスト)を行う。髄液排除により症状が改善した患者(髄液排除試験陽性)では、シャント手術の治療効果を期待することができる。ただし、髄液排除試験が陰性であっても、そのなかにはシャント手術によって症状の改善する患者が潜在的に存在しており、いわゆる偽陰性例が問題となってくる。このような偽陰性例を少なくしようと、腰部くも膜下腔にドレナージチューブを挿入留置して髄液排除を48~72時間持続的に行い、症状の変化を観察する髄液ドレナージ試験を行う場合もある。

表1:特発性正常圧水頭症診療ガイドラインの診断基準

我が国の初版のガイドラインでは髄液排除試験、米国のガイドラインでは髄液ドレナージ試験を、その診断のフローチャートの中心に据えていた。前者には比較的簡便に施行できるという利点がある一方で、偽陰性例が少なからず存在するという問題があり、後者ではより精度の高い陽性率を期待することができるものの、ドレナージチューブを留置しなければならず、それにともなう感染などの問題点が指摘されている。その他にRI脳槽造影CT脳槽造影、頭蓋内圧測定、脳血流測定などの検査が、NPHを診断するために従来より行われてきたが、頭蓋内圧測定以外は充分なエビデンスレベルを有するものはないとされている。頭蓋内圧測定についても文献上充分なエビデンスレベルは証明されているが、測定方法によりそのデータの解釈が異なるなどの問題もあり、本邦においてはNPHの診断法としてそれほどは一般化していないのが現状である。日本の診療ガイドライン第2版において示されているINPH診療のための診断基準およびFlow chartを図4に示す。改訂版の特徴として今後の疫学調査に対応すべく、possible iNPH with MRI supportedという範疇をもうけている。これはMRIのDESH所見とともに特徴的な歩行障害を有する症例では9割以上の確率で治療対象となり得ることから名付けられている。



‖治療法


NPHの治療は、シャント手術が唯一の方法になる。ただし、シャント手術が有効な症例であっても、手術の時期を逸すると脳の障害が進行してしまい、充分な治療効果を期待することは難しい。早期診断、早期治療の重要性が、改めて強調されるべきものと考える。シャント手術にはいくつかの方法があるが、通常は脳室腹腔シャント(V-P シャント)ないしは腰部くも膜下腔腹腔シャント(L-P シャント)が選択される。NPHに対するシャント手術では、シャントシステムの選択が他の水頭症に比べ難しく、手術後もシャントの機能を慎重に観察する必要がある。症状の改善を得るためには、ある一定量の髄液を排出させる必要があるが、髄液の排出が過剰になると硬膜下水腫や血腫が発生する。このような合併症を防ぐために、最近では体外から磁石を使って圧を変更することができる圧可変式バブルや積極的に髄液の過剰排泄を防止する抗サイフォン機構付きバルブも積極的に用いられている。いずれにしろ、術後のADLや各種症状に合わせた適切なシャント圧設定が予後をより改善する。


‖予後


くも膜下出血後のNPHに代表される続発性NPHでは、一般的にシャント手術の有効性は高い。SINPHONIの成績では症候性のDESH所見が確認された患者では、特発性NPHではmRSで80%、iNPH grading scaleでは90%の患者において、術後になんらかの症状改善が確認されている。ただiNPHは高齢者に好発するので、シャント手術によって症状が改善しても、その後脳血管障害などを合併して改善した症状が悪化するといった経過をたどることもある。また、シャント手術によりすべての症状が等しく改善するものではない。最も改善しやすいのは歩行障害、次いで尿失禁であり、痴呆症状は三徴候のなかで最も遅れて改善してくることも確認されている。アウトカム評価においてmRSのようなADL scaleもしくはiNPH GSの如くdisease specificなスケールで評価する際には、その成績がことなり、また、時間経過においても徐々にその成績が低下してくることも確認されている。

2004~2006におけるSINPHONI以降、日本ではiNPHに対して圧可変式バルブの使用や、LP shunt例が徐々に増加してきており、その診療成績の現状を把握すべく,当研究班によるINPH前向き観察研究として「Japan Shunt Registry (JSR of iNPH) 」が企画された。JSRでは各種のシャント手術法や、シャントシステムの組み合わせによる治療成績、合併症の頻度などを幅広く比較検討し、今後のより安全で効果的なINPH診療の方向性を探索することを目的としている。H21年9月からH22年3月までに136症例の登録を得、シャント術後のアウトカムを評価し得た100症例の概略を報告する。SINPHONI以降、本邦では確実に圧可変式バルブが普及し、JSRでは96%に使用され, LP shuntの割合も増加し55%に選択され,更に、LP shuntでは85%にASDの使用が確認された。術後6ヶ月までの成績ではシャント効果はGS評価でshunt responder 88%、術後6ヶ月では82%で1段階以上の改善が確認された。試行的に行った家族のQOL評価では77%の症例に好評価を得た。 JSRの成績より、iNPHに対してLP shuntでもSINPHONIと同様な成績が得られており、今後は術後のADL改善を維持すべく、生活期のリハビリ提供やQOLなども視野に入れた包括的診療プロトコルに向け検討が進むものと期待する。
























    

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