難病特集:ライソゾーム病(ファブリー病)
ライソゾーム病(ファブリー病)に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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概念定義
Fabry病は、全身の細胞のライソゾームに存在する加水分解酵素のひとつであるα-galactosidase Aをコードする遺伝子の異常に起因したα-galactosidase A酵素活性の著明な低下により、α-galactosidase Aの生体内基質であるスフィンゴ糖脂質が細胞のライソゾームに進行性に蓄積し発症する先天性スフィンゴ糖脂質代謝異常症である。α-galactosidase A遺伝子はX染色体上に存在するため、本症はX連鎖性の遺伝形式をとる。
Fabry病は、1898年に初めて、ドイツの皮膚科医Fabryおよび英国の皮膚科医Andersonによりそれぞれ別々に一例報告された。典型的なFabry病男性患者(ヘミ接合体)では、スフィンゴ糖脂質が全身の細胞のライソゾームに蓄積し、多臓器の障害を呈する。これに対し、心障害を主徴とし他の臓器障害を認めない非典型的なFabry病が1990年頃から報告され、心Fabry病と呼ばれている。また、腎障害を主徴とする非典型的なFabry病も存在し、腎Fabry病と呼ばれる。
‖疫学
典型的Fabry病は稀な疾患とされており、欧米人男性で40,000人に1人、オーストラリアでは117,000人に1人と推定されているが、本邦における頻度は不明である。
一方、心Fabry病に関しては、鹿児島県の左室肥大を有する男性患者230例中7例(3%)という比較的高い頻度で存在したことが報告された。その後、英国で肥大型心筋症と診断されていた男性患者153例中6例(4%)にFabry病が検出され、そのうち5例は心Fabry病であったことが報告された。さらに、イタリアで遅発型肥大型心筋症と診断されていた男性患者の3%、スペインで肥大型心筋症と診断された男性患者の0.9%、フランスで肥大型心筋症と診断されていた男性患者の1.4%にFabry病が検出された。最近、台湾で行われた新生児に対するスクリーニングでは、新生男児1,250人~1,370人に1人の頻度でFabry病が検出され、その80%以上に心Fabry病で報告された遺伝子異常を認めることが明らかとなっている。
また、慢性血液透析患者におけるスクリーニングでは、男性透析患者の0.2~1.2%がFabry病であったと報告されている。
‖病因
Fabry病は、α-galactosidase A遺伝子の異常に起因したα-galactosidase A酵素活性の著明な低下により生じる。典型的Fabry病では、α-galactosidase A活性低下により、基質であるglobotriaosylceramide、galabiosylceramideなどのスフィンゴ糖脂質が全身の細胞のライソゾームに進行性に蓄積し、皮膚、眼、神経、血管、腎臓、心臓などの多臓器障害を呈する。一方、心Fabry病では、α-galactosidase A活性は低値ではあるものの僅かに残存しており、心臓の細胞にスフィンゴ糖脂質の蓄積を認め心障害を呈するが、他の臓器障害を欠く。
α-galactosidase A遺伝子は、X染色体の長腕Xq22.1の領域に存在し、その全長は約12,000塩基対で、7個のエクソンよりなる。Fabry病患者でこれまでに報告されたα-galactosidase A遺伝子異常は500種類を超え、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライシング変異、部分欠失、遺伝子挿入などが同定されている。これらの変異の中で最も多いのはミスセンス変異であり、半数以上を占める。
α-galactosidase A遺伝子はX染色体に存在するため、Fabry病はX連鎖性の遺伝形式をとる。父親が患者の場合、そのα-galactosidase A遺伝子異常は女児に引き継がれて保因者となるが、男児には引き継がれない。一方、母親が保因者の場合、そのα-galactosidase A遺伝子異常は男児、女児ともに2分の1の確率で引き継がれ、遺伝子異常を引き継いだ男児は患者、女児は保因者となる。
‖症状
典型的Fabry病男性患者では、多臓器障害により以下の様な多彩な症状を認める。
1) 四肢末端痛
幼少時より出現する四肢末端の激しい疼痛発作で、数分から数時間持続する。精神的ストレス、気温変化などで誘発されることが多く、体温上昇時にも出現する。成人以降になると軽快することが多い。
2) 被角血管腫
腹部、臀部、外陰部などに好発する自覚症状を伴わない暗赤色や赤紫色の小丘疹を認める。
3) 低汗症、無汗症
幼少時より発汗低下、発汗障害が出現し、体温上昇を来しやすい。
4) 角膜混濁
細隙灯顕微鏡(slit-lamp)検査で確認される渦巻き状、放射状またはびまん性の角膜混濁で、視力障害などの自覚症状は通常認めない。
5) 消化器症状
腹痛、嘔吐、便秘、下痢。
6) 精神症状、自律神経障害
うつ症状、人格変化、立ちくらみなど。
7) 聴覚障害
感音難聴が多い。
8) 脳血管障害
脳梗塞、特に多発性小梗塞(ラクナ)を認めることが多い。
9) 腎障害
思春期より蛋白尿、血尿、GFRの低下、クレアチニン-クリアランスの低下などが出現、進行性に増悪して末期腎不全に至る。
10) 心障害
加齢に伴い、進行性の左室肥大や右室肥大を認める。左心機能は、当初は肥大による拡張能障害が主で、肥大型心筋症様の病態を示す。病期の進行とともに収縮能障害も出現し、拡張相肥大型心筋症様の病態を呈するようになり、心不全を発症する。心電図では左室側高電位、異常Q波、ST-T異常などを認める。洞機能不全、房室ブロック、心室内伝導障害などの刺激伝導障害や、心房細動、上室性期外収縮、心室性期外収縮などの多彩な不整脈も出現する。致死性不整脈による突然死もある。
尚、心Fabry病では、典型的Fabry病で認める症状を欠き、病初期は無症状であることが多い。症状は、中高年以降に出現し、左心不全症状、右心不全症状、不整脈による症状などを呈する。
Fabry病の女性保因者(ヘテロ接合体)では、各細胞に2本存在するX染色体のどちらか一方が不活化されるため、各細胞でのα-galactosidase A活性は正常か低下かのいずれかを示す。このため、各臓器ではα-galactosidase A活性が正常な細胞と低下した細胞とがモザイク状に混在した状態となり、症状も、無症状の症例から男性患者と同様に重篤な症状を示す症例まで多彩である。
‖治療
Fabry病は、α-galactosidase A遺伝子異常によるα-galactosidase A活性の著明な低下がその病因であるが、各細胞で低下しているα-galactosidase A活性を改善させる根本的治療法は2001年まで存在せず、対症療法が行われて来た。例えば、幼少時より出現する四肢末端痛に対しては、カルバマゼピンなどが投与される。腎障害に対しては、他の腎疾患と同様に、蛋白制限食、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬などの投与がなされる。末期腎不全に至った症例に対しては、血液透析や腹膜透析、腎臓移植を行う。脳血管障害に対しては、他の血管障害と同様に、抗血小板薬の投与がなされる。心障害に対しては、肥大型心筋症類似の血行動態を呈する時期には、肥大型心筋症の治療に準じてβ遮断薬、Ca拮抗薬などが用いられる。拡張相肥大型心筋症様の病態に移行し心不全を発症した症例に対しては、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、利尿薬など既存の心不全薬物治療が行われる。徐脈性不整脈には恒久ペースメーカーの植え込みがなされ、致死性不整脈に対してはアミオダロンなどの投与や植え込み型除細動器が用いられている。
しかし近年、本症に対する根本的治療法のひとつとして、遺伝子組換え技術を用いて作製されたヒトα-galactosidase A酵素蛋白を2週間に1回点滴で投与する酵素補充療法が開発され、欧州では2001年から、米国では2003年から、本邦では2004年から一般臨床での使用が可能となっている。この酵素補充療法の効果に関しては、各臓器に不可逆的な変化が生じる以前の早期に治療を開始することにより、臓器障害や症状の改善、臓器障害や症状の増悪の抑制が可能であることがこれまでに報告されている。
さらに、この酵素補充療法の他に、シャペロン療法や遺伝子治療の研究も行われており、今後の臨床応用が期待される。
‖予後
臨床経過および予後は、臨床病型と性により異なる。
典型的Fabry病男性患者では、幼少時より四肢末端痛、被角血管腫、低汗症、無汗症、角膜混濁などの症状を認め、その後、加齢に伴い多発性小梗塞などの脳血管障害、腎不全、心不全を発症し、40~50歳代で死に至る。
一方、心Fabry病男性患者は、病初期は無症状で、中高年以降に左心不全症状、右心不全症状、徐脈性または頻脈性不整脈による症状などが出現し、60~70歳代で心臓死(心不全死、不整脈死)に至る。
Fabry病の女性患者では、男性患者と比べ病状は軽いことが多く、進行も比較的遅いことが多い。
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