難病特集:膿疱性乾癬
膿疱性乾癬に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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膿疱性乾癬(汎発型)は通常、発熱と全身の潮紅皮膚上に多発する無菌性膿疱で発症し(図1)、再発を繰り返す。また、重症例では浮腫を伴うことがある(図1)。また、膿疱が多発すると融合し膿海を形成することがある(図2)。病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成する(図3)。膿疱性乾癬(汎発型)は経過中に臨床検査異常を示し、皮膚だけでなく関節や眼、肺、心臓などの皮膚外症状を示すことのある全身性炎症症候群(SIRS)としてとらえるべき病態である。本稿では、厚生労働省研究班と日本皮膚科学会の共同事業として作成された膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン1)について概説する。
膿疱性乾癬写真資料
膿疱性乾癬写真資料
‖定義
乾癬には、最も発症頻度の高い尋常性乾癬の他に亜型として、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬がある。広義の膿疱性乾癬には膿疱性乾癬(汎発型)と限局性膿疱性乾癬(掌蹠膿疱症、アロポー稽留性肢端皮膚炎)があり、本稿で取り扱うのは膿疱性乾癬(汎発型)である。膿疱性乾癬(汎発型)には急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch型)、小児汎発性膿疱性乾癬、疱疹性膿痂疹、などが含まれる。von Zumbusch型は急激な発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発するまれな疾患である。病理組織学的には、Kogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成する。その他の型では、全身症状はないか、あっても軽度で紅斑と膿疱を繰り返し、慢性に経過する。
経過中に、全身炎症反応に伴って臨床検査異常を示し、しばしば、粘膜症状、関節炎を合併するほか、まれに眼症状、心循環器不全、呼吸器不全、二次性アミロイドーシスを合併することがある2)。膿疱性乾癬(汎発型)と鑑別を要する疾患として、膿疱型薬疹(全身性汎発性発疹性膿疱症:AGEPを含む)や角層下膿疱症がある。
‖疫学
厚生労働省の特定疾患受給者個人調査票のデータをみると、我が国における膿疱性乾癬(汎発型)の新規発生患者は、2004年が83人、2005年が84人であった。性別では男性にやや多い傾向がある。発症年齢は幼児から高齢者にわたる。
‖病因
膿疱性乾癬(汎発型)は尋常性乾癬(肉眼的に膿疱を形成することが少ない炎症性角化症の代表的疾患の一つ)が先行して発症する症例がある一方で、全く尋常性乾癬と関連がない症例もある。尋常性乾癬のHLA(遺伝的背景)解析の結果、わが国および海外においてHLA-Cw6の集積性がみられるが、膿疱性乾癬(汎発型)では関連がなく、両者は異なる遺伝的素因を有することが示唆される3)。
‖臨床症状
急性期症状は、前駆症状なしに、あるいは尋常性乾癬皮疹が先行し、灼熱感とともに紅斑を生じる。多くは悪寒戦慄を伴って急激に発熱し、全身皮膚の潮紅、浮腫とともに無菌性膿疱が全身に多発する(図1)。膿疱は3~5mm大で、容易に破れたり、融合して環状連環状配列をとり、ときに膿海を形成する(図2)。爪甲肥厚や爪甲下膿疱、爪甲剥離などの爪病変、頬粘膜病変や地図状舌などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、ときに結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全、悪液質や腎不全を併発することがある。
慢性期には、尋常性乾癬の皮疹や、手足の再発性膿疱のほか、非特異的紅斑丘疹など多様な症状を呈する。急性期皮膚症状が軽快しても、強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関節炎が続くことがある。
膿疱性乾癬写真資料
‖誘因
感染症(特に上気道感染)、紫外線曝露、薬剤(特に副腎皮質ホルモン薬など)、妊娠月経、低カルシウム血症、ストレスなどが知られている。抗生物質、鎮痛解熱薬によって誘発されることもあるが、膿疱型薬疹(全身性汎発性発疹性膿疱症:AGEPを含む)との鑑別が必要である。また、尋常性乾癬に対する不適切な治療、ことに強カな副腎皮質ホルモン薬治療の中止が発症の誘因になることがある。しかし、膿疱形成が一過性の場合は、膿疱性乾癬(汎発型)と診断されない(診断基準を参照)。
‖検査所見
病理組織学所見は、表皮肥厚や表皮突起延長に加えて、表皮角層下に好中球性膿疱を認め、その周囲のKogoj海綿状膿疱がみられるのが特徴である
血液検査所見として本症に特徴的なものはないが、合併症の有無や重症度の判定に必要である。白血球増多核左方移動、血沈亢進CRP強陽性ASLO高値、IgGまたはIgAの上昇、低蛋白血症低カルシウム血症などが認められる。
角層直下の好中球性膿疱とその周囲のKogoj海綿状膿瘍
‖診断基準
成書によって膿疱性乾癬の定義が異なるが、膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン1)では厚生労働省が認定する特定疾患としての膿疱性乾癬(汎発型)を意味する。膿疱性乾癬(汎発型)には、(1)急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch型)、(2)小児汎発性膿疱性乾癬、(3)疱疹状膿痂疹と、(4)稽留性肢端皮膚炎の汎発化が含まれる。一方で、小児の circinate annular form、尋常性乾癬の一次的膿疱化や限局性膿疱性乾癬として包含される掌蹠膿疱症は、病因的に類縁疾患であっても特定疾患に含まれない。薬剤によって生じた一過性膿疱型薬疹(AGEPを含む)も受給対象から除外される。
膿疱性乾癬(汎発型)の診断基準は(1)全身性炎症反応、(2)特徴的皮膚症状、(3)定型的病理学的所見の3要素に加えて(4)再発性であることが重要な因子である(表1)1)。
表1 膿疱性乾癬(汎発型)の診断基準(厚生労働省研究班)
主要項目
1)熱あるいは全身倦怠感などの全身症状を伴う
2)全身または広範囲の潮紅皮膚面に無菌性膿疱が多発し、時に融合して膿海を形成する
3)病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱を証明する
4)以上の臨床的、組織学的所見を繰り返し生じる。ただし、初発の場合は臨床経過から下記(後述)の疾患を除外できること
以上の4項目を満たすものを膿疱性乾癬(汎発型)「確実例」と診断する。主要項目2)と3)を満たす場合を「疑い例」と診断する。
{除外診断}
1)尋常性乾癬が明らかに先行し、副腎皮質ホルモン剤などの治療により一過性に膿疱化した症例は原則として除外するが、皮膚科専門医が一定期間注意深く観察した結果、繰り返し容易に膿疱化する症例で、本症に含めた方がよいと判断した症例は本症に含む。
2)Circinate annular formは、通常全身症状が軽微なので対象外とするが、明かに汎発性膿疱性乾癬に移行した症例は、本症に含む。
3)一定期間慎重な観察により角層下膿疱症、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosisを含む)と診断された症例は除く。
‖重症度判定と合併症を評価する臨床検査
膿疱性乾癬に特徴的な血液尿検査項目はないが、全身性炎症反応にともなう白血球増多、核左方移動、赤沈亢進、CRP陽性のモニターは重症度判定に重要である。その他に、IgGまたはIgA上昇、低蛋白血症、低カルシウム血症を示すことがある。病巣感染としての扁桃炎、ASLO高値、その他の感染病巣の検査や、合併症として強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関節炎、眼病変(角結膜炎、虹彩炎、ぶどう膜炎、ほか)に注意が必要である。肝腎尿所見のスクリーニングは治療の選択や二次性アミロイドーシス評価に有用である。
‖重症度分類
発症後短期間に膿疱が多数生じ、全身症状を示す急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch型)においては心循環不全を伴うことがあり、急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)やcapillary leak症候群などの肺合併症を起こすことがあるため2),6)、心循環系の負担を評価する必要性が強調されている。そのため、皮膚症状の評価では(1)紅斑の面積、(2)膿疱を生じた皮膚範囲、に加えて、旧分類にはなかった(3)浮腫の範囲が加えられた(図1)。(1)~(3)をスコア化し、皮膚症状を評価する。さらに、全身性炎症に伴う検査所見(発熱、白血球数。血清CRP値、血清アルブミン値)の評価をスコア化し、その点数を皮膚症状の点数と合計することにより、軽症、中等症、重症に分類される(表2)1)。
図1 浮腫性紅斑性局面と多発性膿疱
図1
表2 膿疱性乾癬(汎発性)の重症度分類基準(2010年)
A皮膚症状の評価 紅斑、膿疱、浮腫(0-9)
B全身症状検査所見の評価 発熱、白血球数、血清CRP、血清アルブミン(0-8)
重症度分類(点数の合計) 軽症(0-6)
中等症(7-10)
重症(11-17)
A.皮膚症状の評価(0-9)
高度 中等度 軽度 なし
紅斑面積(全体)* 3 2 1 0
膿疱を伴う紅斑面積** 3 2 1 0
浮腫の面積** 3 2 1 0
*体表面積に対する%(高度:75%以上、中等度:25以上75%未満、軽度:25%未満)
**体表面積に対する%(高度:50%以上、中等度:10以上50%未満、軽度:10%未満)
B.全身症状検査所見の評価(0-8)
スコア 2 1 0
発熱(℃) 38.5以上 37以上38.5未満 37未満
白血球数(/μL) 15,000以上 10,000以上15,000未満 10,000未満
CRP(mg/dl) 7.0 以上 0.3以上-7.0未満 0.3未満
血清アルブミン(g/dl) 3.0未満 3.0以上-3.8未満 3.8 以上
‖治療
膿疱性乾癬(汎発型)は稀少な疾患であり、エビデンスに基づく診療指針を提言することが難しい。診療ガイドライン1)から治療の要点を抜粋する(日本皮膚科学会のホームページ(http://www.dermatol.or.jp/)から取得できる診療ガイドライン中に掲載されている治療アルゴリズム(13ページ)を参照)。本症は生命を脅かす病態であるため、妊娠、授乳婦、小児の患者治療に際しては、安全性が確立されていない薬剤を組み入れざるをえないことがある。
◎急性期の全身管理
膿疱性乾癬(汎発型)の直接死因は心循環不全が多く、全身管理と薬物療法が必須である2)。乾癬治療薬による重症の副作用(メトトレキサートによる肺線維症や肝不全、レチノイン酸症候群と呼ばれる呼吸不全など)に注意する必要がある。最近では、ARDSやcapillary leak症候群に伴う呼吸不全と循環不全のため重症化する症例が散見される6)。急性期の肺合併症にはステロイド内服が用いられる。
◎成人(非妊婦、授乳婦)に対する内服療法
エトレチナートとシクロスポリンは何れも第一選択薬である。エトレチナートの用量は0.5~1.0mg/kg/dayから開始し、症状にあわせて用量を調節する。長期治療における副作用(肝障害、過骨症、骨端の早期閉鎖、催奇性など)に留意する。
シクロスポリンは2.5~5.0mg/kg/dayで開始され、症状にあわせて用量を調節する。長期治療では腎障害や高血圧などに注意し、血清クレアチン値が上昇した場合は用量調整を行う7)。
メトトレキサートは、他の全身治療に抵抗性の症例や、関節炎の激しい症例に推奨される。わが国では保険適用がないこと、副作用(肝障害、骨髄抑制、間質性肺炎など)に留意し、十分なインフォームドコンセントに配慮する。
妊娠までの最低限の薬剤中止期間は、エトレチナートでは女性2年間、男性6か月、メトトレキサートでは男女とも3ヶ月とされている8)。
◎小児の膿疱性乾癬(汎発型)に対する治療
エトレチナート療法は骨成長障害があるため小児には第一選択薬として推奨できないが、シクロスポリンが奏効しない場合や減量が難しい場合には選択せざるを得ないことがある。十分な説明と同意を取得した上で適応を考慮する。
◎妊婦、授乳婦の膿疱性乾癬(汎発型)に対する治療
欧米ではエトレチナートとメトトレキサートは妊婦や授乳婦に対して絶対禁忌に指定されている。シクロスポリンが催奇形性を高めるという証拠はないが9)、当診療ガイドラインでは妊婦授乳婦に対して禁忌にしている。しかし、重症例ではその使用を容認せざるをえないこともある。
◎生物学的製剤を用いた治療
生物学的製剤は近年の免疫学や分子生物学の進歩の元に、最近開発された薬剤である。本邦でも、TNFα阻害薬がCrohn病や関節リウマチ、ベーチェット病などで使用されている。尋常性乾癬や関節症性乾癬に対するランダム化二重盲検試験の報告があるが、治療全体における生物学的製剤の位置づけは確立されていない。膿疱性乾癬(汎発型)に対する治療経験は少数であり、EBM的見地から治療の位置づけや長期安全性を明確にすることは難しい。適応追加後の症例報告の蓄積に頼らざるを得ない。
妊娠、授乳婦、小児の患者治療に際して、本症は生命を脅かす病態であるため、安全性が確立されていない薬剤を組み入れざるをえないことがある。生物学的製剤はエトレチナートやシクロスポリンが使用できない症例や関節症状がある症例に、十分な説明と同意を取得した上で適応を考慮する。
◎合併症とその対策
膿疱性乾癬(汎発型)では、合併する関節症状や虹彩炎などの眼合併症の治療を必要とすることがあり、長期間の炎症症状に起因する二次性アミロイドーシスを生じることもある。とくに関節症は20%程度に合併し、関節変形の後遺症が問題となる。皮膚症状だけでなく、関節症の活動性や重症度を判断し、両者に効果的な薬物療法を選択し、皮疹がコントロールされた後でも関節症に対する治療計画をたてることがQOL改善に必要である。
参考:
1) 治療選択
全国調査(1994年)の結果(急性、慢性期を含む)では、エトレチナートの内服が最も高頻度に使用されている(67.6%)。続いてPUVA療法(32.4%)、ステロイド内服(29.5%)、シクロスポリン内服(22.5%)、その他の療法(16.4%)、メトトレキサート(16.2%)、扁摘(8.2%)、シクロスポリン以外の免疫抑制剤(2.9%)の順で治療が選択されている。
2) 各治療法の効果副作用
全国調査において、著効、有効、やや有効、無効の4段階で各治療法の有効性を調査した結果、エトレチナートが有効性79.4%(著効+有効)と最も優れており、続いてステロイド、シクロスポリン、メトトレキサートはほぼ同等の効果(60%)を示していた。副作用の頻度はエトレチナートにおいて最も高く(38.8%)、続いてシクロスポリン(30.9%)、ステロイド(26.4%)、メトトレキサート(20.4%)である。
‖予後
治癒あるいは膿疱出現が減少した軽快例は、43.0%の患者で認められる。しかし、膿疱出現をくり返す例や、膿疱出現が増加した再発例も多く、これに尋常性乾癬に移行した例と死亡した例を加えると、約半数の症例は同程度の再発をくり返すし、難治といわざるを得ない。2回の全国調査(1989年、1994年)において、208例の汎発性膿疱性乾癬患者中10例(第1回目調査)、244例中7例(第2回目調査)の死亡患者の登録があり、稀ながら不幸な転帰をとる症例が存在する。死亡統計では、4.2例/年で、55歳以上の男性に多い。海外の報告では、死因として悪液質、心血管系異常、アミロイドーシス、メトトレキサート合併症などの報告がある。
‖予防
膿疱性乾癬(汎発型)の誘因として、感染症(ことに上気道感染)、紫外線曝露、薬剤、妊娠月経、低カルシウム血症、ストレスなどがあり、妊娠月経を除きその予防に努める。疫学的調査からは、1)喫煙、2)朝食を食べない、3)干し魚を食べない、4)ニンジンを食べない、などの食生活に偏りがある者に発症リスクが高いと報告されている。
‖おわりに
膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン1)に記載されている膿疱性乾癬(汎発型)の診断基準、重症度分類、治療について概説した。今後、全国調査などによりデータを蓄積し、逐次、診療ガイドラインを改訂していく予定である。
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