難病特集:慢性血栓寒栓性肺高血圧症
慢性血栓寒栓性肺高血圧症に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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‖要旨
2009年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」(研究代表者:三嶋理晃)では、特発性慢性肺血栓塞栓症-肺高血圧型(CTE-PH)の名称変更および認定基準を含む内容の改訂を行った。CTE-PHは慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に名称を変更した。更新時は手術例と非手術例に大別し、いずれにおいても治療により肺高血圧症の程度は改善していても、内科的治療継続が必要と考えられるため、更新認定とすることを明記した。
‖はじめに
肺高血圧症は、肺血管床に起こる病態が契機となり生じる場合以外にも、膠原病をはじめ様々の病態に合併することが知られている。 (血栓、腫瘍などによる)肺動脈の物理的な閉塞、肺動脈の器質的障害、肺動脈の機能的攣縮、肺血流量の増加、肺静脈の器質的障害など、その病態には種々の要因が関与しており、一つの病気とは言えない。 そのため、その病態分類に応じた治療が求められる。 肺高血圧症の病態解明、治療法の開発臨床導入には近年目覚ましいものがある。
2008年、カリフォルニアのダナポイントで第4回の肺高血圧症ワールドシンポジウムが開催され、この分野における知見が総括された。 一方日本の臨床においても、肺高血圧症に対して作用機序の異なる様々の薬剤が保険適用となってきている。 そこで、日本において肺高血圧症の分野で、臨床研究の中心として活動している厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」(研究代表者:三嶋理晃)は、特定疾患治療研究事業における対象疾患名の変更および認定基準の改訂を行ったので(2009年10月より変更)、これまでの歴史的経緯および改訂の概略を記載する。
‖呼吸不全に関する調査研究班
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」は、1978年(昭和53年)に始まり現在も継続中の研究事業である。その前身は、1975年(昭和50年)に立ち上がった「原発性肺高血圧症」調査研究班(班長:慶応大学、笹本浩)である。「原発性肺高血圧症」調査研究班は、原発性肺高血圧症(Primary pulmonary hypertension:PPH)の疫学、診断、病理所見などを明らかにすることを目的とした。その事業として、PPH診断基準の作成、全国アンケート調査、肺動脈圧の非観血測定方法の開発、PPHに特徴的病理所見の確認などを目指した。その事業を引き継いだのが「呼吸不全に関する調査研究班」である。
「呼吸不全に関する調査研究班」でも、その事業の一部として肺高血圧症に関する臨床研究基礎研究が継続され、その成果として、1998年(昭和63年)には、特発性慢性肺血栓塞栓症-肺高血圧型(CTE-PH)が、難治性疾患の中で治療給付対象疾患として認められた。「呼吸不全に関する調査研究班」の目的の一部は、それら肺循環障害を来している患者の病態治療方法予後を検討し、QOLおよび予後改善のための適切な治療方法を模索することである。現在、研究班ではUMINインターネット医学研究データセンターのシステムを介して、インターネット経由での疫学調査を施行している
(http://kokyufuzen.umin.jp/)。
‖世界肺高血圧症シンポジウム ー 1998年エビアン分類まで
日本での「呼吸不全に関する調査研究班」も、世界における肺高血圧症研究の流れを受けている(表1)。1973年(昭和48年)ジュネーブにて、WHO主催のPPHに関する専門家会議が開催され、肺高血圧症の臨床分類が提案された。その2年後の1975年に、日本では「PPH」調査研究班が発足した。「PPH」調査研究班は、1978年に「呼吸不全に関する調査研究班」の一部となった。
ジュネーブでの第1回PPH会議後の肺高血圧症研究の進展は、近年の急速な研究の進展と比較すると緩徐であった。第1回PPH会議25年後の1998年に、フランスのエビアンにて、第2回のPPHワールドシンポジウム(WHO共催)が開催され、エビアン分類が提唱された。この肺高血圧症のエビアン分類では、肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertension:PAH)の一部がPPHとされた。このエビアン分類は、2008年のダナポイント分類の原型になっている。
表1. 肺高血圧症に関するワールドシンポジウムと日本の「呼吸不全に関する調査研究班」の経年的関係
‖世界肺高血圧症シンポジウム ー ダナポイント分類
2008年には、カリフォルニアのダナポイントで第4回の肺高血圧症ワールドシンポジウムが開催され、この分野における知見が総括された。ダナポイント分類は、基本路線はエビアン分類ベニス分類の継承であるが、エビアン分類以降の基礎研究/臨床研究の成果が入っている(表2)。ベニス分類では「慢性血栓塞栓症and/or塞栓症によるPH(PH due to chronic thromboembolic and/or embolic disease)」であったが、ダナポイント分類では「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)」に名称変更された。
表2. ダナポイント分類による肺高血圧症
1. 肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertension:PAH)
1.1 特発性(idiopathic)
1.2 遺伝性(heritable)
1.3 薬物/毒物誘起性
1.4 他病態に関係した(associated with)
1.4.1 結合組織病(connective tissue disease)
1.4.3門脈圧亢進症(portal hypertension)
1.4.4先天性心疾患(congenital heart disease)
1.5新生児遷延性肺高血圧症(persistent pulmonary hypertension of newborn)
1’. 肺静脈閉塞性疾患(pulmonary veno-occlusive disease: PVOD)and/or
肺毛細血管腫症(pulmonary capillary hemangiomatosis: PCH)
2. 左心疾患による肺高血圧症(PH owing to left heart disease)
3. 呼吸器疾患 and/or低酸素による肺高血圧症(PH owing to lung disease and/or hypoxia)
3.1 COPD
3.2 間質性肺疾患(interstitial lung disease)
4. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)
‖CTE-PHよりCTEPHへの名称変更および認定基準の見直し
ベニス分類では「慢性血栓塞栓症and/or塞栓症によるPH(PH due to chronic thromboembolic and/or embolic disease)」であったのが、ダナポイント分類では「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)」に名称変更された。また、近年の肺高血圧症に関する論文ではCTEPHの名称の使用が定着している。そこで、本調査研究班では従来の特発性慢性肺血栓塞栓症-肺高血圧型(CTE-PH)の名称を、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に変更した。
CTEPHの診断には、従来は右心カテーテル検査での肺高血圧所見が必須であり、さらに肺動脈造影検査または肺換気血流スキャン検査で基準を満たすことが認定条件であった。しかし近年、肺動脈造影検査の代わりに胸部造影CT検査での代用も可能になってきている。そのような日本の医療事情を考慮して、新規申請時の認定に、1. 右心カテーテル検査所見、2. 肺換気血流シンチグラム所見、3. 肺動脈造影所見 and/or胸部造影CT所見を必須とした。なお、PAHに属するすべての病態の否定は従来と同様である(表3)。
CTEPHの中で、中枢側の肺動脈に血栓塞栓が存在する場合には、手術適応もある。また、近年CTEPHを対象疾患として、PAHと同様の肺血管拡張療法の臨床治験が進行している。
そこで更新時は手術例と非手術例に大別した。いずれにおいても、治療により肺高血圧症の程度は改善していても、内科的治療継続が必要と考えられるため、認定更新とすることを明記した。
表3. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症の認定基準
慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併し,臨床症状として労作時の息切れなどを強く認めるものである。本症の診断には、右心カテーテル検査による肺高血圧の診断とともに、他の肺高血圧をきたす疾患の除外診断が必要である。
(1) 主要症状及び臨床所見
① 労作時の息切れ
② 急性例にみられる臨床症状(突然の呼吸困難,胸痛,失神など)が、以前に少なくとも1回以上認められている。
③ 下肢深部静脈血栓症を疑わせる臨床症状(下肢の腫脹及び疼痛)が以前に少なくとも1回以上認められている。
④ 肺野にて肺血管性雑音が聴取される。
⑤ 胸部聴診上、肺高血圧症を示唆する聴診所見の異常(Ⅱ音肺動脈成分の亢進など)がある。
(2) 診断のための検査所見
① 右心カテーテル検査で
(a) 肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg 以上、肺血管抵抗で240 dyneseccm-5以上)
(b) 肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg 以下)
② 肺換気血流シンチグラム所見
換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が,血栓溶解療法又は抗凝固療法施行後も6カ月以上不変あるいは不変と推測できる。推測の場合には,6カ月後に不変の確認が必要である。
③ 肺動脈造影所見
慢性化した血栓による変化として,1. pouch defects,2. webs and bands,3. intimal irregularities,4. abrupt narrowing,5. complete obstruction の5つのうち少なくとも1つが証明される。
④ 胸部造影CT所見
造影CTにて、慢性化した血栓による変化として, 1. mural defects,2. webs and bands,3. intimal irregularities,4. abrupt narrowing,5. complete obstruction の5つのうち少なくとも1つが証明される。
(3) 参考とすべき検査所見
① 心臓エコー検査にて、三尖弁収縮期圧較差 40mmHg以上で、推定肺動脈圧の著明な上昇を認め、右室肥大所見を認めること。
② 動脈血液ガス所見にて、低炭酸ガス血症を伴う低酸素血症を呈する
③ 胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大,
④ 心電図で右室肥大所見
(4) 下記の除外すべき疾患を除外すること。
以下の肺高血圧症を呈する病態は、慢性血栓塞栓性肺高血圧症ではなく、肺高血圧ひいては右室肥大慢性肺性心を招来しうるので,これらを除外すること。
1. 特発性または遺伝性肺動脈性肺高血圧症
2. 膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症
3. 先天性シャント性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症
4. 門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症
5. HIV感染に伴う肺動脈性肺高血圧症
6. 薬剤/毒物に伴う肺動脈性肺高血圧症
7. 肺静脈閉塞性疾患、肺毛細血管腫症
8. 新生児遷延性肺高血圧症
9. 左心性心疾患に伴う肺高血圧症
10. 呼吸器疾患および/または低酸素血症に伴う肺高血圧症
11. その他の肺高血圧症(サルコイドーシス、ランゲルハンス細胞組織球症、リンパ脈管筋腫症、大動脈炎症候群、肺血管の先天性異常、肺動脈原発肉腫、肺血管の外圧迫などによる二次的肺高血圧症)
(5) 認定基準
以下の項目をすべて満たすこと。
① 新規申請時
1) 診断のための検査所見の右心カテーテル検査所見を満たすこと。
2) 診断のための検査所見の肺換気血流シンチグラム所見を満たすこと。
3) 診断のための検査所見の肺動脈造影所見ないしは胸部造影CT所見を満たすこと。
4) 除外すべき疾患のすべてを除外できること。
② 更新時
手術例と非手術例に大別をして更新をすること。
1) 手術例
肺血栓内膜摘除術例においては、肺高血圧症の程度は改善していても、手術日の記載があり、更新時において肺換気血流シンチグラム所見ないしは胸部造影CT所見のいずれかの所見を有すること。
2) 非手術例
肺血管拡張療法などの治療により、肺高血圧症の程度は新規申請時よりは軽減していても、内科的治療継続が必要な場合。
a) 参考とすべき検査所見の中の心臓エコー検査の所見を満たすこと。
b) 診断のための検査所見の肺換気血流シンチグラム所見、胸部造影CT所見のいずれかを有すること。
なお、肺換気血流シンチグラムないしは胸部造影CT検査は、新規申請時に使用した検査と同一のものでないこと。
c) 除外すべき疾患のすべてを除外できること。
‖結語
2009年度「呼吸不全に関する調査研究班」は、従来の特定疾患であるCTE-PHの名称を変更し、CTEPHとしたことに伴い、その内容の見直しを行った。そのため、その歴史的経緯および認定基準の変更に関して概説した。現時点でも、肺高血圧症に対しては新規薬剤による様々な治験が進行中である。今後さらに、難治性疾患である肺高血圧症の病因病態解明そして治療の開発が望まれる。今回の改訂により臨床調査個人票の改訂も行ったことを付け加える。
‖文献
呼吸不全に関する調査研究班(巽浩一郎、他). 肺動脈性肺高血圧症(PAH)および慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH) 日本呼吸器学会雑誌 48: 551-564, 2010.
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