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難病特集:巣クローン抗体を伴う末梢神経炎(クロウフカセ症候群)
       


巣クローン抗体を伴う末梢神経炎(クロウフカセ症候群)に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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‖概念定義


1956年、Crowは多発性骨髄腫に末梢神経障害を合併した2例を報告した。1例は肩甲骨に骨硬化像を伴う骨病変を呈したもの、他の1例は胸骨に骨病変を呈した症例であり、骨生検所見は形質細胞腫であった。本邦では1968年に深瀬らにより「多発性神経炎及び内分泌異常を惹起した孤立性骨髄腫」として報告されたが、その後に相次いで同様の多発性神経炎、内分泌異常を伴うplasma cell dyscrasiaの症例が報告され、多発性神経炎、内分泌異常、plasma cell dyscrasiaは1つの症候群として把握すべきものとの提唱がなされた。 これまでCrow‐Fukase症候群、POEMS症候群、高月病、PEP症候群などの名称で呼ばれているが、これらはすべて同一のものである。現在本邦においてはCrow‐Fukase症候群、欧米ではPOEMS症候群と呼ばれることが多い。 POEMSとは、多発性神経炎(polyneuropathy)、臓器腫大(organomegaly)、内分泌異常(endocrinopathy)、 M蛋白(M‐protein)、皮膚症状(skin changes)の頭文字を表している。1997年に本症候群患者血清中の血管内皮増殖因子(VEGF: vascular endothelial growth factor)が異常高値となっていることが報告されて以来、VEGFが多彩な症状を惹起していることが推定されている。すなわち本症候群は形質細胞腫が基礎に存在し、多発ニューロパチーを必須として、 その他の臨床症状として臓器腫大(肝脾腫)、内分泌異常(女性化乳房、甲状腺機能異常)、M蛋白血症、皮膚症状(色素沈着、剛毛、血管腫)、骨硬化病変など多彩な症状を併存する症候群と定義し得る。血清VEGFはほぼ全例で高値を示し、診断に有用である。


‖疫学


深瀬らの報告以来、我が国において多くの報告がある。1983年の厚生省神経疾患研究委託費「末梢神経障害の病態とその治療に関する研究」において全国調査が行われ、我が国におけるCrow-Fukase症候群102例の臨床的解析が報告された。発症に地域特異性はなく、全国に広く分布している。 また1995年に高月は上記の102例に1991年までに報告された56例を加えた臨床像を検討し、男女比は1.5:1であり、発症は20歳代から80歳代と広く分布していることを報告した。平均発症年齢は男女ともに48歳であり、多発性骨髄腫に比較して約10歳若かった。2004年の厚生労働省難治性疾患克服研究事業「免疫性神経疾患に関する調査研究班」による全国調査では、国内に約340名の患者がいることが推定された。しかし診断されずに見逃されている症例がいることが予想され、実際の患者数はより多いと推定される。欧米からの報告は少なく、日本においてより頻度の高い疾患であるとされている。


‖病因


本症候群の多彩な病像の根底にあるのが形質細胞の増殖であり、おそらく形質細胞から分泌されるVEGFが多彩な臨床症状を惹起していることが実証されつつある。VEGFは強力な血管透過性亢進および血管新生作用を有するため、浮腫、胸腹水、皮膚血管腫、臓器腫大などの臨床症状を説明しやすい。しかし全例に認められる末梢神経障害(多発ニューロパチー)の発症機序については必ずしも明らかではない。血管透過性亢進により血液神経関門が破綻し、通常神経組織が接することのない血清蛋白が神経実質に移行することや神経血管内皮の変化を介して循環障害がおこるなどの仮説があるが実証には至っていない。IgGやIgAのM蛋白が神経障害を惹起する可能性は否定的である。また、末梢神経構成蛋白、糖蛋白やガングリオシドに対する抗体は陰性であり、神経生検組織像でも明らかなリンパ球やT、B細胞浸潤の像はない。基本的な病理学的変化は脱髄(myelin uncompaction)であるが、下肢遠位部では軸索変性が認められる。


‖治療


標準的治療法は確立されていない。現状では以下のような治療が行われており、新規治療も試みられている。少なくとも形質細胞腫が存在する症例では、病変を切除するか、あるいは化学療法にて形質細胞の増殖を阻止すると症状の改善をみること、血清VEGF値も減少することから、形質細胞腫とそれに伴う高VEGF血症が治療のターゲットとなる。

(1)孤発性の形質細胞腫が存在する場合は、腫瘍に対する外科的切除や局所的な放射線療法が選択される。しかし腫瘍が孤発性であることの証明はしばしば困難であり、形質細胞の生物学的特性から、腫瘍部以外の骨髄、リンパ節で増殖している可能性は否定できず、局所療法後には慎重に臨床症状とVEGFのモニターが必要である。

(2)明らかな形質細胞腫の存在が不明な場合、又は多発性骨病変が存在する場合は全身投与の化学療法を行う。同じ形質細胞の増殖性疾患である多発性骨髄腫の治療が、古典的なメルファラン療法に加えて自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法、サリドマイド、あるいはボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)などによる分子標的療法に移行していることに準じて、本症候群でも移植療法、サリドマイド療法が試みられている。副腎皮質ステロイド単独の治療は一時的に症状を改善させるが、減量により再発した際には効果がみられないことが多く推奨されない。


A.メルファラン大量間歇療法


メルファラン0.24mg/kgを4日間の経口間歇投与を4~6週毎に繰り返す。適宜プレドニゾロンを併用する。メルファランの総投与量が1000mgを越えると、骨髄異形成症候群や二次性悪性腫瘍の合併率が増加するとされており、治療期間は2年以内に留めざるを得ない。本療法により部分寛解を得られることが多いが、数年以内に再発が起こり、骨髄腫と同様に根治は困難である。またしばしばこのメルファラン療法に対する反応が乏しい患者が存在する。


B.自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法


2010年2月現在、国外からの発表を含めて約45名の報告がある。G-CSFを投与して造血幹細胞を採取するプロトコールが多く用いられている。その後骨髄破壊的メルファラン大量静注(計200mg/m2体表面積)を2日間で行う。移植療法に伴う最大の問題は強力な化学療法による治療関連死である(多発性骨髄腫では約2%とされる)。そのため移植療法の適応は65歳以下で全身状態の良好な患者に限られる。呼吸不全、腎不全、感染症等により全身状態が不良の場合には現在移植の適応外とされており他の治療法を選択する。本療法後に劇的な臨床症状の改善がみられたとの報告が複数なされており、長期寛解が得られる可能性のある治療法のひとつといえる。5年以上の長期予後については未だ報告はなく今後の検討が待たれる。厳格な基準のもと、本治療法を熟知した施設で行われるべきである。


C.サリドマイド療法


サリドマイドはかつて妊婦への投与で奇形児が多発し、製造中止となった薬剤であるが、多発性骨髄腫において抗腫瘍効果が認められることから、メルファラン療法に反応が不良であった本症候群患者にサリドマイド(100-200mg/日)の投与を行い臨床症状の改善が約1年持続しているとの1例報告が2006年になされた。その後2008年には、本邦から9例においてこの治療が有効であったとの報告がされている。今後移植療法の適応にならない場合に中心となる治療法になると考えられる。ただしサリドマイドが末梢神経障害を悪化させる可能性も考慮する必要がある。


D.ベバシズマブ(抗VEGFモノクローナル抗体)


一過性であるが強力にVEGF値を低下させる。有効例と無効例の報告があり、論議のあるところであるが、亜急性進行例に対して即効性を期待して上記の治療と併用する方法は今後検討に値するものと思われる。


‖予後


有効な治療法が行われない場合の生命予後は不良である。副腎皮質ステロイド主体の治療が行われていた1980年代までは平均生存期間は約3年であった。メルファラン療法が中心であった1990年代には平均生存期間は5~10年と改善が見られたが治療効果は不十分であった。全身性浮腫による心不全、心膜液貯留による心タンポナーデ、胸水による呼吸不善、感染、血管内凝固症候群、血栓塞栓症などが死因となる。2000年頃から行われ始めた自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法の中期(治療後数年)予後は良く長期寛解が期待されているが、2007年に入り、治療後それぞれ5、7年後の再発例が報告された。長期予後については今後の検討が必要である。サリドマイド療法は短期的には有効である可能性が高いが、今後その証明が必要である。長期予後に及ぼす効果については現時点では不明である。
























    

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