難病特集:脊髄小脳変性症
脊髄小脳変性症に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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■概念定義
脊髄小脳変性症とは、運動失調を主症状とし、原因が、感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫性疾患等によらない疾患の総称である。
臨床的には小脳性の運動失調症状を主体とする。遺伝性と孤発性に大別され、何れも小脳症状のみがめだつもの(純粋小脳型)と、小脳以外の病変、症状が目立つ物(非純粋小脳型)に大別される。劣性遺伝性の一部で後索性の運動失調症状を示すものがある。
■疫学
全国で約3万人の患者がいると推定される。その2/3が孤発性、1/3が遺伝性である。遺伝性の中ではMachado-Joseph病(MJD/SCA3)、SCA6、SCA31、DRPLAの頻度が高い。その他、SCA1、2、7、8、14、15等が知られている。(下図 平成15年 日本神経学会総会 本邦に於ける脊髄小脳変性症のpopulation based 前向き臨床研究による自然歴の把握 運動失調に関する調査及び病態機序に関する研究班 研究代表者 辻省次 より)。
下に示す遺伝性SCDの内訳はSCA31の遺伝子が同定される以前の物で、遺伝性の「その他」の多くはSCA31と考えられる。しかし、まだ原因遺伝子が未同定の遺伝性SCAが10~20%内外存在すると考えられる。劣性遺伝性の脊髄小脳変性症は本邦では少ない。その中では“眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発性運動失調症(EAOH/AOA1)の頻度が比較的高い。小児発症型の劣性遺伝性では純粋小脳型を示すことは少なく、他の随伴症状を伴うことが多い。欧米ではこの範疇に入る疾患としてフルードライヒ失調症の頻度が高く有名であるが、本邦では本疾患の患者さんはいらっしゃらない。本邦でフリードライヒ失調症と考えられていたものの多くはEAOH/AOA1と考えられている。一方、成人発症例の劣性遺伝性では純粋小脳型を示す例がある。
■病因
孤発性のものの大多数は多系統萎縮症であり、その詳細は多系統萎縮症の項目を参照されたい。一部小脳症状に限局した小脳皮質萎縮症がある。アルコール多飲や、腫瘍に伴って失調症状を示すことがある。若年者で一過性の小脳炎の存在も知られている。
遺伝性の場合は、多くは優性遺伝性である。一部劣性遺伝性、母系遺伝性、希にX染色体遺伝性の物が存在する。
優性遺伝性のSCA1、2、3、6、7、17、DRPLAでは、原因遺伝子の中のCAGという3塩基の繰り返し配列が増大することによりおこる。本症の遺伝子診断は、この繰り返し数の長さにて診断している。各々の正常繰り返し数の上限の目安はSCA1 39、SCA2 32、 MJD/SCA3 40、 SCA6 18、SCA17 42、 DRPLA 36 である。これを超えた場合、疾患の可能性を考えるが、この周辺のリピート長の場合、真に現在の病態に寄与しているかについては、臨床症状を加味し、慎重に診断する。
CAG繰り返し配列は、アミノ酸としてはグルタミンとなるため、本症は異常に増大したグルタミン鎖が原因であると考えられる。他に同様にグルタミン鎖の増大を示す、ハンチントン舞踏病、球脊髄性筋萎縮症と併せて、ポリグルタミン病と総称する。
増大したポリグルタミン鎖によって作られる凝集体が、細胞内に認められる。この事から増大ポリグルタミン鎖の凝集体の易形成性が、直接、もしくは間接的に細胞毒性を持つと考えられている。現在は、凝集体そのものは、むしろ防御的で、それが形成される前の多量体が神経細胞への毒性を持つとする説が強い。
細胞毒性は増大ポリグルタミン鎖により、他の蛋白質の機能が障害され引き起こされるという機序が唱えられている。しかし、その詳しい機序については諸説があり結論がついていない。発病や進行を阻止できる根治的な治療方法の開発につながる病態機序はまだ明らかになっていない。しかし、病態機序に基づいた疾患の根本治療を目指す研究が活発に行われている。
■症状
症状は失調症状を認めるが、周辺症状は各病型毎に異なる。優性遺伝性の脊髄小脳変性症は、症状が小脳症状に限局する型(純粋小脳型,autosomal dominant cerebellar ataxia type III : ADCA type III)と、その他の錐体外路症状、末梢神経障害、錐体路症状などを合併する型(非純粋小脳型,ADCA type I)に臨床的に大別される。孤発性の物は、前述したように大多数が多系統萎縮症であるが、一部純粋小脳型の小脳皮質萎縮症がある。劣性遺伝性の多くは非純粋小脳型で有り、後索障害を伴う場合が多い。一般的に小脳症状に限局する型の方が予後は良い。またSCA6や周期性失調症などで、症状の一過性の増悪と寛解を認める場合がある。
非純粋小脳型では、画像状の萎縮と症状に乖離が認められる場合もある。一般に非純粋小脳型のポリグルタミン病では、高齢であるほど、リピート長が長いほど画像上の萎縮が目立つ。またその変化も小脳に限局せず脳幹にも及ぶ。このため、若年者で発症時に、画像上の変化が目立たない例や、高齢者で症状に比して萎縮が強い場合などもあることもある。特にMJD/SCA3の高齢発症者は、一見、症状が小脳に限局している印象を与えることがある。
非純粋小脳型では頻度からMJD/SCA3、1、2を考える。SCA2はゆっくりとした滑動性眼球運動、MJD/SCA3は初期から目立つ姿勢反射障害や、上方視制限が特徴である。しかし、リピートの長さや、年齢により症状は多様である。若年発症例および進行例において、各々の疾患に特徴的な症候が現れやすい。
純粋小脳型ではSCA6、31を中心に考える。これらは画像上も初期から小脳に限局した萎縮を認める。
SCA7は網膜色素変性症を伴うことが多い。SCA8,SCA17 は極めて臨床症状が多様で有る。
下記に、遺伝性のSCAの診断フローチャートを提示する。家族歴が明瞭で無い場合でもSCA31、SCA8、MJD/SCA3等は可能性がある。この様な家族歴のない症例に対し、遺伝子診断を行う場合は、優性遺伝性疾患で有り、本人の結果が未発症の血縁者にも影響を与えることから、特に十分な説明と同意が必要である。
各疾患について病型毎の診断基準案を本稿の終わりに列挙する。またより詳しい情報はGenereviews(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1116/)にて入手可能である。
ポリグルタミン病では、CAG繰り返し配列の長さと、発症年齢に負の相関があり、一般にリピート数が長いほど若年で発症し、重症となる傾向にある。ポリグルタミン病は、SCA6を除き、家系内でも症状が多彩で有り、世代を経る毎に重症化する傾向(表現促進現象)を認める。
脊髄小脳変性症の遺伝子診断は保険適応となっていない。ポリグルタミン鎖の増大に関する遺伝子診断は、民間検査機関、もしくは一部の大学病院などで行っている。塩基配列解析を必要とするような疾患の遺伝子診断は行っているところが極めて少ない。これらの診断は、各研究機関(Gentests http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/GeneTests/ で海外の研究機関を紹介している)に問い合わせる。
失調症状の変遷の記載方法としてはICARS、SARA、UMSARSというスケールが用いられる(SARA日本語版PDF、UMSARS日本語版PDF)。またMSAのQOLのスケールもある(MSAのQOL PDF)。ICARASの抜粋が臨床調査個人票に用いられており、この項目のみでも、経過をよく反映する。
■SCA病型の特徴
SCA1
新潟大学医学部保健学科 高橋俊昭
新潟大学脳研究所 小野寺理,西澤正豊
(1)発症年齢
(ア) 30才代ないし40才代の発症が多い。
CAG伸長の程度により4才から74才まで報告がある。
(イ) 同一家系内においては、表現促進現象を認める。
(2)臨床症状
(ア)主症状
①小脳性運動失調(歩行障害での発症が多い。)
②構音障害
③眼振
④錐体路徴候;腱反射亢進
(イ)副症状
①嚥下障害
②錐体外路症候:chorea, dystonia等(進行期)
③認知機能の低下(中等度)
注) CAG伸長数や罹病期間により、各症状の出現頻度や程度は変化する。
(3)検査所見
(ア)頭部画像所見:橋小脳萎縮
(4)診断方法
(ア)遺伝子診断:Ataxin-1遺伝子解析によりCAG反復配列の異常伸長(≧39 repeat)を証明する。
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)常染色体優性遺伝性の進行性小脳性失調症。
(イ)本邦では、東北地方において有病率が高い。
(ウ)30代ないし40代の発症が多い。
(エ)初発症状は歩行障害が多い。
(オ)SCA2, SCA3などと臨床症状の相同性がある。SCA2とは緩徐眼球運動や腱反射の減弱、SCA3とは、錐体外路症候、眼球運動障害の程度頻度において異なる。
SCA2
新潟大学医学部保健学科 高橋俊昭
新潟大学脳研究所 小野寺理,西澤正豊
(1)発症年齢
(ア) 3成年期の発症が多いが、CAG伸長数により発症年齢はさまざまである。
(イ)同一家系内において、表現促進現象を認める。
(2)臨床症状
(ア)主症状
①小脳性運動失調
②構音障害
③緩徐眼球運動 (眼振の頻度は低い。)
④腱反射減弱~消失 (polyneuropathy)
(イ)副症状
① 筋萎縮(進行期)
② dystonia, myoclonus, tremor (進行期やCAG伸長数の長い症例)
③ fasciculation, myokymia (進行期やCAG伸長数の長い症例)
④ 認知機能の低下 (中等度)
注)CAG伸長数や罹病期間により、各症状の出現頻度や程度は変化する。
注)20才以前の若年発症者(CAG repeat>45)では、症状の進行が早い傾向がある。
(3)検査所見
(ア)頭部画像所見:橋小脳萎縮
(イ)電気生理検査: sensory ganglionopathy
(4)診断方法
(ア)Ataxin-2遺伝子解析によるCAG反復配列の異常伸長を証明する(CAG≧32 repeat)。
(補) Aaxin-2における 27〜33 repeat のCAG反復配列(intermediate-length)は、孤発性のALSの発症リスク因子として報告されている。
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)常染色体優性遺伝性の家族歴を有する進行性の小脳性失調症。
(イ)緩徐眼球運動や腱反射消失は、本症の可能性を示唆する。
(ウ)眼振の頻度は低い。
(エ)他の脊髄小脳変性症(SCA1、SCA3等)との症候の相同性があり、臨床症候のみで本症を診断することは困難である。
SCA3/Machado-Joseph disease (MJD)
新新潟大学脳研究所 生命科学リソース研究センター 他田正義,小野寺理
同 神経内科 西澤正豊
(1)発症年齢 臨床病型により発症年齢が異なる。
(ア)I型:10~30歳代(若年)発症。進行性の錐体路+錐体外路徴候(主にジストニア)が前景に立つ。
(イ)II型: 20~50歳代(中年)発症。小脳失調+錐体路徴候が前景に立ち、錐体外路徴候も呈することがある。
(ウ)III型: 40~70歳代(高年)発症。小脳失調+末梢神経障害(筋萎縮、感覚障害、腱反射低下消失)を呈する。
(エ)IV型: 発症年齢は様々。パーキンソン症状+末梢神経障害を呈する。
注) II型またはI型の臨床病型をとることが多いが、稀に痙性対麻痺型や純粋小脳失調症を呈する場合があり、注意を要する。
(2)臨床症状
(ア)中核症候:
①緩徐進行性の小脳失調(体幹失調、四肢失調、失調性構音障害)
②錐体路徴候(痙性,腱反射亢進、病的反射陽性)
③錐体外路徴候(主にジストニアで、アテトーゼ様運動やパーキンソン症状を呈することがある)
④末梢神経障害(遠位筋の筋萎縮、感覚障害、腱反射減弱消失)
(イ)副症候
①進行性の外眼筋麻痺(外転、上転障害が多い)
②注視方向性眼振(水平性が多い)
③衝動性眼球運動障害
④びっくり眼(眼瞼後退)
⑤動作誘発性の顔面舌の筋線維束攣縮様運動
⑥声帯麻痺(嗄声)、前庭機能障害、自律神経障害、レム睡眠行動障害、情動障害、腰仙骨領域の慢性疼痛を呈することがある。認知機能は保たれる(障害は軽度に留まる)。
注)同一家系内でも臨床症状は多様。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:小脳、脳幹(橋、中小脳脚、中脳、上小脳脚)の萎縮、第4脳室の拡大を認める。特に小脳虫部上面に優位の萎縮を認める。小脳虫部脳幹の萎縮は、リピート数および撮像時年齢と相関する。T2強調FLAIR像で淡蒼球の異常信号を認めることがある。
(4)診断方法
(ア)MJD1遺伝子におけるCAGリピート異常伸長の解析
①発症年齢と伸長アレルのCAGリピート数には負の相関関係がある。ホモ接合体例は、同じリピート数を有するヘテロ接合体例に比し発症年齢が早く、臨床症状が重症である(遺伝子量効果の存在)。
②一つの家系内で世代を経るごとに発症年齢が早くなり、病型が重症化する(表現促進現象)。
③リピート数が少ない患者では臨床診断に苦慮する場合が多い。
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)常染色体優性遺伝性の家族歴(浸透率はほぼ100%)。
(イ)発症年齢は30-40歳前後が多い。
(ウ)緩徐進行性の小脳失調症と錐体路徴候を中核症候とし,錐体外路徴候と末梢神経障害が様々な程度で組合わさる。
(エ)びっくり眼、外眼筋麻痺、顔面舌の筋線維束攣縮様運動は特異性が高い。
SCA5
岡山大学神経内科 池田佳生
(1)発症年齢
(ア)アメリカSCA5家系:33±13歳 (10-68)
(イ)フランスSCA5家系:27±10歳(14-40)
(ウ)ドイツSCA5家系:33±13歳(15-50)
注)30歳前後の発症が多い。 注)表現促進現象を認めることがある。
(2)臨床症状
(ア)主症状
①小脳失調(体幹失調、四肢失調、失調性構音障害)
②滑動性眼球運動障害
③注視方向性眼振
(イ)副症状
①腱反射亢進
②顔面ミオキミア
③下肢振動覚低下
④下眼瞼向き眼振
⑤眼球運動制限
注) 顔面ミオキミアはフランスSCA5家系で、下眼瞼向き眼振はドイツSCA5家系で特徴的に認められているが、それぞれ他の2家系では認められず、稀な症状である可能性がある。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:ほぼ小脳に限局した萎縮を示す。特に小脳虫部上葉に優位の萎縮を認め、脳幹や大脳には萎縮所見を認めない。
(4)診断方法
(ア)ベータIIIスペクトリン遺伝子(SPTBN2)における変異解析
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)常染色体優性遺伝性の家族歴。
(イ)発症年齢は30歳前後が多い。
(ウ)ほぼ純粋小脳症状に終始する表現型を示し、脳MRI画像上も小脳に限局した萎縮所見を示す。
(エ)症状の進行は緩徐で罹病期間が長い症例においても機能障害レベルは高くない。
SCA6
新潟大学脳研究所 生命科学リソース研究センター 他田正義,小野寺理
同 神経内科 西澤正豊
(1)発症年齢
(ア)19~71歳(平均43~52歳)
(2)臨床症状
(ア)初発症状は歩行のふらつき、躓き、構音障害が多い。
(イ)ほぼ純粋な小脳失調症を呈する。すなわち、小脳性失調性歩行、四肢の運動失調、構音障害、注視方向性眼振(水平性、下眼瞼向き)を認める。
(ウ)頭位変換時のめまい感や動揺視などの症状を伴うことがある。
(エ)腱反射異常(亢進または低下)、足底反射陽性、痙性、深部覚低下、ジストニアなどの不随意運動、外眼筋麻痺、凹足変形などを伴うことがある。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:小脳に限局した萎縮を認める。小脳萎縮は虫部上面に強く、半球で軽度である。脳幹や大脳は保たれる。
(4)診断方法
(ア)CACNA1A遺伝子におけるCAGリピート異常伸長の解析
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)常染色体優性遺伝性の家族歴。
(イ)発症年齢は20~66歳、45歳前後。
(ウ)緩徐進行性の純粋小脳失調症。ただし、腱反射異常、病的反射陽性、軽度の深部感覚障害などは本疾患を否定する根拠にはならない。一方、感覚障害、レストレスレッグ症候群、視力異常、筋萎縮は来しにくい。
(エ)頭位変換時のめまい感や動揺視、下眼瞼向き眼振は本症を支持する所見。
(オ)MRIで小脳に限局した萎縮。
SCA8
岡山大学神経内科 池田佳生
(1)発症年齢
(ア)0歳(先天性)から70歳代まで発症年齢は幅広いが、30歳前後の発症が多い。
注)低浸透率が顕著であり、孤発例であっても延長SCA8リピートを認めることがある。
(2)臨床症状
(ア)主症状
①小脳失調(体幹失調、四肢失調、失調性構音障害)
②滑動性眼球運動障害
③注視方向性眼振
(イ)副症状
①腱反射亢進などの錐体路徴候
②ミオクローヌスなどの不随意運動
③認知機能障害
④下肢振動覚低下
⑤幼小児期の発症例では精神遅滞、不随意運動やてんかんを伴うことがある。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:ほぼ小脳に限局した萎縮を示す。特に小脳虫部上葉に優位の萎縮を認める。脳幹の軽度萎縮を伴うこともある。
(4)診断方法
(ア)ataxin-8 (ATXN8)/ ataxin-8 opposite strand (ATXN8OS)遺伝子におけるCAG・CTG リピート延長の解析(PCR解析またはサザンブロット解析)
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)延長SCA8リピートは常染色体優性遺伝形式で伝達されるが、低浸透率が顕著なため、個々の家系においては、1世代のみに複数の発症者を認める家系(見かけ上は常染色体劣性遺伝形式に類似)や、孤発例であっても延長SCA8リピートを認めることがある。
(イ)発症年齢は30歳前後が多い。
(ウ)成人発症SCA8は純粋小脳症状型を呈し、脳MRI画像上も小脳に限局した萎縮所見を示すことが多い。
(エ)幼小児期発症SCA8では精神遅滞、不随意運動やてんかんを伴うことがある。
(オ)症状の進行は緩徐のことが多い。
SCA10
岡山大学神経内科 松浦 徹
(1)発症年齢
(ア) 10歳~50歳
注)不安定歩行で4歳時発症のブラジル人女性例 (Arch Neurol 2007;64:591-4)
(2)臨床症状
(ア)小脳失調(歩行運動失調 > 肢節運動失調)
(イ)構音障害、眼球運動障害(眼振、眼球測定異常など)
(ウ)てんかん発作を伴う事が多いが(大発作、部分発作、複雑部分発作、二次性全般化)、認めない例もある。
注)下肢痙縮、腱反射亢進、Babinski 徴候陽性を伴うことあり。
注)知能低下、人格変化、下肢の遠位優位感覚障害を認める例もある。
注)民族により症状が異なる可能性あり。ブラジル人例のてんかんの合併は稀。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:全般性小脳萎縮
(イ)脳波:発作間歇期に全般性徐波化と突発性異常波を認める。
注) IQやミネソタ式多面的人格検査 (MMPI) の異常を認めることがある。
注)末梢神経伝導速度:多発ニューロパチーの所見を認めることがある。
(4)診断方法
(ア)SCA10遺伝子解析— ATTCT リピート異常伸長の確認(サザンブロット、long-PCR、repeat-primed PCR)
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)てんかんの合併例
(イ)祖先にメキシコ人またはアメリカインディアンを持つもの
SCA12 (ドイツ系アメリカ人家系およびドイツ人家系より )
名古屋大学 神経内科 祖父江元、伊藤瑞規
(1)発症年齢
(ア) 8歳~62歳
注)30歳代の発症が多い。
(2)臨床症状
(ア)上肢、頭部の動作時振戦
(イ)小脳失調、構音障害、眼振
(ウ)腱反射亢進、Babinski反射陽性
(エ)運動緩慢や運動量減少などのパーキンソニズム
(オ)認知機能障害
(カ)不安やうつ、妄想などの精神症状
注)上肢には姿勢時振戦や企図振戦を認めることもある。
注)通常下肢には動作時振戦を認めない。
注)小脳障害は他のSCAと比較して重症度が軽い傾向にある。
注)パーキンソニズムとして安静時振戦は通常認めない。
注)認知機能障害や精神症状は、通常初期には認めない。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:小脳虫部を中心とした小脳萎縮、びまん性の大脳萎縮
(イ)末梢神経伝導速度:運動神経は、伝導速度、CMAPの低下がある。一方、感覚神経は、運動神経よりも障害が強く、SNAPが誘発できない。
注)小脳萎縮よりも大脳萎縮が目立つ。
注)末梢神経伝導速度異常は約50%に認められ、正常の症例も存在する。
(4)診断方法
PPP2R2B遺伝子解析
SCA13 :フランス家系(1型)とフィリピン家系(2型)より
横浜市立大学神経内科 黒岩義之
(1)発症年齢
(ア) フランス家系(1型)
①幼児期発症(1歳~5歳)
注) 1型は1例のみ45歳発症
(イ) フィリピン家系(2型)
①成人発症(20歳~60歳:平均35歳)
注) 2型は表現促進の可能性がある
(2)臨床症状
(ア)フランス家系(1型)
①常染色体優性遺伝
②女性に多い、低身長
③精神発達遅滞(IQ:60~70)、運動機能発達遅延
④経過が長い
⑤小脳失調、構音障害、眼振
⑥腱反射亢進(Babinski徴候陰性)
注)てんかん(欠神発作)を認めた1例がある。
(イ)フィリピン家系(2型)
①常染色体優性遺伝
②小脳失調、構音障害、眼振
③筋緊張低下、腱反射亢進
(3)検査所見
(ア)フランス家系(1型)
①頭部MRI:小脳の萎縮(虫部主体)、脳幹の軽度萎縮
注) 1例で脳波上3Hz spikeを認めている。
(イ)フィリピン家系(2型)
①頭部MRI:小脳の萎縮(虫部主体)のみ
SCA14 26家系106症例の解析より
北海道大学神経内科 矢部一郎、佐々木秀直
(1)発症年齢
(ア) 主に成年発症であるが、幅がある
(2)臨床症状
(ア)必発症候
①小脳性運動失調
(イ)頻度の高い症候
①眼振
②滑動性眼球運動の障害
③腱反射の亢進もしくは減弱
④下肢振動覚の低下
⑤振戦もしくはミオクローヌス
(ウ)稀な症候
①認知機能障害
②抑うつ状態
③ジストニアなどの錐体外路障害
注) 多様な報告例があるが、小脳性運動失調のみに終始する例が最も多い
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:選択的な小脳萎縮
(イ)脳血流SPECT:小脳の血流低下
(4)診断方法
(ア)PRKCG遺伝子解析
(5)本邦において本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)緩徐進行性の運動失調
(イ)脳MRIでは選択的小脳萎縮を認める
(ウ)運動失調の程度は軽い
(エ)SCA6やSCA31を鑑別できる。
注1)本邦ではSCA14は稀な疾患である。
注2)若年症例ではミオクローヌスや“振戦”などの不随意運動を伴う場合がある。
SCA15
新潟大学神経内科 野崎洋明,池内健,小野寺理,西澤正豊
(1)発症年齢
20歳~50歳に好発するが、7歳~70歳まで幅広い
注)症状が軽微なため、自覚に乏しい症例もある
(2)臨床症状
(ア)主症状
①極めて緩徐に進行する体幹失調(発症後20~30年経過した症例でも自力あるいは杖を使用すれば歩行可能)
②四肢失調
③失調性構音障害
注)構音障害を認めない症例もある
④頭部体幹の振戦(titubation)または上肢遠位の姿勢時動作性振戦
注)振戦は失調と同時あるいは先行して約4割に出現する
(イ)副症状
①注視性眼振
②軽度の腱反射亢進
(3)検査所見
頭部MRI:小脳中部の萎縮。小脳半球の萎縮はあっても軽度。大脳や脳幹の萎縮はない。
(4)診断方法
ITPR1遺伝子解析:欠失/重複のチェックを行った後、塩基配列解析を行う。
注)遺伝子検査でSCA5、6、8、12、14、31が除外できた症例で、臨床的にSCA15を疑う場合にITPR1遺伝子解析が推奨される。
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
常染色体優性遺伝形式
極めて緩徐に進行する小脳失調
上肢遠位の姿勢時動作性振戦
SCA17
新潟大学脳研究所病理学分野 豊島靖子
(1)発症年齢
3歳から55歳までで発症年齢は幅広いが、30歳前後の発症が多い。
(2)臨床症状
①小脳失調(体幹失調、四肢失調、失調性構音障害)
②認知機能障害
③不随意運動(舞踏病様運動、ジストニアetc.)
④精神症状
⑤腱反射亢進などの錐体路徴候
⑥筋固縮
(3)検査所見
頭部MRI:小脳のみにとどまらず、大脳、脳幹に萎縮を認める。
(4)診断方法
TATA-box –binding protein (TBP)遺伝子におけるCAG・CAA リピート延長の解析
正常:25-42 CAG/CAA repeats
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)延長CAA/CAAリピートは常染色体優性遺伝形式で伝達されるが、43-48リピートで発症しない者がある。49リピート以上では100%の浸透率をみる。
(イ)発症年齢は30歳前後が多い。
(ウ)失調、精神症状が初発症状のことが比較的多く、その後認知症、パーキンソニズム、不随意運動、錐体路症状などが、さまざまな組み合わせで出現する。同じ家系でも症状が異なる場合がある。
(エ)CAG/CAA リピートの短い(43-50 repeats)症例は、精神症状、認知症、舞踏病様運動が前面に出て、長い(50-60 repeats)症例は認知症、錐体路症状、ジストニアを呈することが多い傾向がある。60リピートを超える者は幼小児期発症で、精神遅滞、不随意運動、痙性を伴う。
SCA27
東北大学大学院医学系研究科神経内科 武田 篤
(1)発症年齢
(ア)失調については18歳から50歳(平均34歳)、姿勢時振戦については6歳から20歳(平均11歳)
(2)臨床症状
(ア)若年時からみられる姿勢時振戦と、その後成人期以降に出現する失調症状(眼振、頭部揺動、失調性構音障害、肢節体幹失調)の組み合わせが特徴
(イ)腱反射は正常~やや亢進、病的反射は陰性
(ウ)口唇顔面ジスキネジア(60%)、振動覚低下(60%)が見られることがある。
(エ)知能低下、低学歴、定職に就かない者が多い。
(オ)気分障害(抑うつや攻撃性の増大)が見られることもある(50%)。
(3)検査所見
(ア)晩年になって初めてMRI上、軽度の小脳萎縮がみられるが、それ以前には特徴的な画像所見なし。
(4)診断方法
(ア)家族歴と臨床症状
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)常染色体優性遺伝の家族歴
(イ)幼少期からみられる姿勢時振戦が成人期以降に出現する失調症状に先行
(ウ)低学歴、低IQ、定職に就いていない
SCA31(旧病名:16q-ADCA)
東京医科歯科大学 神経内科 石川欽也、水澤英洋
(1)発症年齢
(ア)50~70歳代(平均発症年齢は55歳から60歳程度)
注)40歳代などでの若年発症例もある。
(2)臨床症状
(ア)基本的には小脳性神経障害に限定される.すなわち、歩行障害などの体幹失調、構音障害、四肢協調運動障害、筋トーヌス低下、注視方向性眼振が主体である。注視方向性眼振はSCA6より目立たない傾向がある。
(イ)腱反射は様々で、通常は正常であるが、軽度亢進から低下まである。
(ウ)Babinski徴候は原則陰性。陽性の場合は、頚椎症や脳血管障害などの合併症の除外を要す。
(エ)感覚障害はないか、在っても軽度の振動覚低下を認める程度である。
(オ)少数、認知症やパーキンソニズムを合併した患者が存在するが、高齢のため「合併」した可能性がある。
(カ)眼球運動制限、筋力低下、筋萎縮などは見られない。
(キ)聴力低下を合併することがある。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:小脳虫部上面を中心とする萎縮。進行した症例では半球側にも萎縮が及ぶ。
(イ)聴力検査で、加齢の影響を超えた異常を認めることがある。
(4)診断方法
(ア)SCA31の伸長挿入をPCRで確認する。
(イ)PCR産物の内部配列にTGGAAリピートが存在することを確認する。ただし、テクニカルに困難な面があり、(ウ)で代用可能。
(ウ)SCA31に強い連鎖不平衡を示すpuratrophin-1遺伝子-16C<T異常を確認する(SCA31患者の99%以上で認める)。
理由:(ア)のPCRによる伸長挿入の確認だけでは、TGGAAリピートを有さない稀な健常伸長アレルを捉える可能性があり、誤診の危険性が残る。このため、(イ)を行うか、遥かに簡便な(ウ)puratrophin-1遺伝子-16C<T異常を確認することが望ましい。
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)高齢発症型の純粋小脳失調。
(イ)家族歴がない場合も、否定できない。
プリオン病 日本人12家系18症例の解析より
鹿児島大学神経内科老年病学 高嶋 博
(1)発症年齢
(ア) 22歳~72歳
注)自験17例では平均初発56.9+-SD 8.5 中央値59歳。自験例では若い順に38, 43, 51歳で50歳未満は2例のみ。
注)本邦の最年少の初発年齢22歳。1例のみ極端に発症が早い。(大阪大学報告)
(2)臨床症状
(ア)初期症状
①下肢の失調
②下肢のしびれ
③下肢筋力低下(近位筋)
④下肢深部腱反射の消失
⑤構音障害
⑥上肢小脳失調(巧緻運動障害)、注視方向性眼振
(イ)中期から晩期の症状
①認知障害
②視覚異常
③難治性下肢疼痛
注)下肢の腱反射が出る例もある。
注)Babinski反射の陽性例もあり
(3)検査所見
(ア)SPECT
①小脳失調の存在にもかかわらず、大脳中心の血流の低下
②モザイク状の大脳血流低下 後頭葉>前頭葉>側頭葉の順に血流の低下。
(イ)頭部MRI
①病初期には異常なし。
注)小脳の萎縮像の報告あり
②中期―末期には、
(1) T2, FLAIR, DWIで大脳皮質に高信号
(2) T2, FLAIR, DWIで側脳室前角周囲大脳白質に高信号
(3) DWIで被殻、視床枕に高信号
(4)診断方法
(ア)PRNP(プリオン蛋白)遺伝子解析 P102L A117V P105Lなど
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)下肢優位の小脳失調または構音障害で、下肢腱反射の低下(通常消失)および下肢の有痛性のしびれを合併する場合
(イ)SPECTで小脳の血流が保たれ、大脳がより落ちている場合
EAOH/AOA1
新潟大学脳研究所 神経内科 横関明男,西澤正豊
同 生命科学リソース研究センター 小野寺理
(1)発症年齢
(ア)1歳前後~20歳代(最軽症例は40歳発症例がある)
(イ)初発症状は歩行障害 (不随意運動や知能障害の合併に気づくこともある)
(2)臨床症状
(ア)知能
①ナンセンス変異症例は、知能障害を認める
②ミスセンス変異症例は、知能は正常
(イ)小脳失調
(ウ)歩行障害
①ナンセンス変異症例は、20歳代までにほぼ歩行不可となる
②ミスセンス変異症例は、30歳以降に歩行不可となる
注)本邦での軽症例は40歳で歩行不可
(エ)構音障害 全例で合併
(オ)腱反射消失(20歳代では、いずれも消失)
(カ)眼球運動失行 (幼小児期では陽性率が高いが、加齢とともに減少)
(キ)不随意運動 (tremor、choreaの頻度が高い、athetosis、dystonia、myoclonusも合併する)
(3)検査所見
(ア)血清アルブミン
①ナンセンス変異症例は、20歳以降で3g/dl以下に低下
②ミスセンス変異症例は、全経過で3g/dlまでの低下
(イ)神経伝導速度
①上肢より下肢が障害されやすい
②脛骨神経CMAP、腓腹神経SNAPは20歳以降では導出されない
③感覚神経は、運動神経より障害されやすい
(ウ)頭部MRI 発症時より小脳萎縮を認める
(4)診断確定
(ア)APTXの遺伝子変異の確認
(5)いままでに報告のない症状
(ア)てんかんの合併
(イ)出生直後の発症 (Floppy infantの報告はない)
(ウ)腱反射亢進 ※Babinski反射が陽性になる例は少数例存在する
(6)本疾患を疑うポイント
(ア)両親に血族婚または出身地が近く、処女歩行の遅れや幼小児期に歩行の異常を認める場合
(イ)眼球運動失行は患者の自覚症状に乏しく、他覚的には「よく首をふる」などの症状である
(ウ)遅発性の発症例では、腱反射はすでに消失しているが、知能は保たれている場合が多い
Ataxia with oculomotor apraxia type 2 (AOA2)
(主としてMoreira M-C & Koenig M. GeneReviews, Last Update: March 5, 2007を参考に作成)
信州大学脳神経内科、リウマチ膠原病内科 吉田邦広
(1)発症年齢
(ア)大半は10歳代である (10~22歳、平均15.6歳)
注)本邦の7家系13名では12~22歳、平均17.8歳
(2)臨床症状経過
(ア)小脳失調(失調性歩行)(100%、初発症状となる)
(イ)末梢神経障害(遠位部優位の筋萎縮筋力低下および感覚障害、深部腱反射減弱~消失、手指足の変形)(90%以上、小脳失調より遅れて出現する)
(ウ)眼球運動失行(約50%) 注)本邦7家系13名ではいずれも眼球運動失行は見られていない。
(エ)ジストニア、振戦、舞踏病(約20%)
(オ)認知機能障害(軽症)
(カ)20歳代で歩行不能(車椅子)になることが多いが、生命予後は良好である。
注)本邦の最高齢は77歳である。
注)原則として神経系以外の症状(心症状、免疫不全、悪性腫瘍に対する易罹患性、など)は見られないが、早期の閉経が報告されている。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:小脳虫部半球の萎縮はしばしば高度。脳幹の萎縮は見られない。
(イ)腓腹神経生検:軸索変性が主体(90%以上)
(ウ)血清α‐fetoprotein (AFP)高値 (90%以上でAFP≧20 ng/mlを示す)
注)本邦では測定された7家系12名中10名(83%)が血清AFP≧20 ng/mlである。
(4)診断方法
(ア)SETX遺伝子解析
注)常染色体優性遺伝性の筋萎縮性側索硬化症(ALS4)にてSETX遺伝子のミスセンス変異が報告されている。
注)常染色体優性遺伝性のataxia/tremor syndromeにてSETX遺伝子のミスセンス変異が報告されている。
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)両親に血族婚があり(本邦では7家系中5家系で両親の血族婚が確認されている)、20歳以前に発症する緩徐進行性の小脳失調症の症例では、本疾患を念頭に置く。
(イ)小脳失調に遅れて、次第に末梢神経障害が目立つようになるため成人期以降では小脳失調と末梢神経障害が混在した病像を呈する。
(ウ)血清α‐fetoprotein (AFP)高値は有力な診断マーカーである。
Marinesco-Sjögren 症候群
さいがた病院 山田光則
(1)発症年齢
(ア)乳幼児期(成人発症例あり?)
(2)臨床症状
(ア)常染色体劣性遺伝:両親がいとこ婚(約60%)。血縁のない両親からの家族発症例も目立つ
(イ)必須事項
①運動発達遅滞(100%):頚定座位の遅れ。伝い歩きは3歳頃に可能となる。独立独歩は少数
②精神発達遅滞(100%):中等度。非進行性
③白内障(100%,急速な視力低下):1~7歳(平均3.5歳)。ほぼ全例が両側性(発症時期に左右差ありうる)。希に片側性
④小脳症状(80%):乳幼児期には筋緊張低下、運動失調。小児期から思春期は断綴性の発語、動作の遅さが目立つ
(ウ)特徴的事項
①ミオパチー:ほぼ全例(96%).深部腱反射消失。成人期以降は中核的症状。下肢優位の著明な筋力低下筋萎縮
②原発性性腺機能不全(100%):女性は無月経、男性は睾丸萎縮や女性化乳房
③骨格異常(92%):小頭症、脊柱後側彎、短趾症(特に第四趾)、低身長など
④眼位眼球運動異常(84%):外転制限、共動性内斜視、側方注視眼振、下眼瞼向き眼振など
(エ)その他
①てんかん(小児期)、末梢神経障害(下肢優位)、ぷっくりとした足
(3)検査所見
(ア)血清CK値(正常~軽度上昇)、針筋電図で筋原性変化、頭部画像で後頭蓋窩狭小小脳萎縮(低形成)、下肢筋CT/MRIで大腿伸筋群下腿屈筋群主体の変性、筋生検でrimmed vacuoleを伴う(82%)筋ジストロフィー様変化、性腺刺激ホルモン(LH,FSH)が高値、LH-RH刺激試験で過大反応
(イ)遺伝子異常:SARA2,SIL1(これら遺伝子に異常のない症例もあり)
(4)診断方法
(ア)精神運動発達遅滞、白内障、小脳症状、ミオパチーなどの組み合わせで診断可能。
(イ)頭部画像:小脳萎縮
(ウ)筋生検:幼小児期におけるrimmed vacuoleの存在は特徴的
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)精神運動発達遅滞、両側性白内障などで疑う
ARSACS:日本人12家系18症例の解析より
山梨大学神経内科 瀧山嘉久
(1)発症年齢
(ア)1.5歳~20歳後半
注)10歳未満の発症が8割を占める。
注)ケベック例では12~18ヶ月に処女歩行以来の歩行障害がある。
(2)臨床症状
(ア)小脳失調、構音障害、眼振
(イ)下肢痙縮、腱反射亢進、Babinski徴候陽性
(ウ)位筋萎縮 (下肢>上肢)
(エ)下肢深部覚障害
(オ)網膜有髄線維の増生
(カ)手指変形 (スワンネック様)、足変形 (凹足、槌状趾)
注)下肢痙縮、腱反射亢進を欠く例がある。
注) 本邦例の網膜有髄線維の増生は、ケベック例に比べて程度が軽く、欠く例もある。
注) 手指変形、足変形を欠く例がある。
注)アキレス腱反射は徐々に低下し、通常25歳以上では消失する。
注)ケベック例では知能は正常であるが、本邦例では知能低下を認めることがある。
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:小脳虫部上葉の萎縮、T2/FlAIR像で橋の線状低信号
(イ)頚髄MRI:頚髄の萎縮
(ウ)末梢神経伝導速度:運動神経は、下肢で遠位潜時の増加と中等度〜高度の伝導速度の低下がある。一方、感覚神経は、運動神経よりも障害が強く、大多数で腓腹神経のSNAPが誘発できない。
(エ)腓腹神経生検:著明な軸索変性と大径有髄神経の脱落がある。
(4)診断方法
(ア)SACS遺伝子解析
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)両親に血族婚があり、幼小児期発症の痙性失調症の症例で、網膜有髄線維の増生があれば、本疾患を強く疑う。
SCAR8(ARCA-1):Rouleau らの64例の解析から
新潟大学脳研究所 小野寺理
(1)発症年齢
(ア)17歳~50歳まで
注)平均は30歳前後、20~40歳までが約8割をしめる
(2)臨床症状
(ア)初発症状 小脳失調、構音障害で初発、かつ必発
注)構音障害のみの例の報告もある
(イ)約30%で認められる症状
①腱反射亢進
②緩徐な衝動性眼球運動
③追従性運動の異常
(ウ)約10%以下で認められる症状
①眼振
②クローヌス、バビンスキー徴候
(エ)経過は緩徐、40年以上経過を追われている例もある。
(オ)歩行は、自立、もしくは杖歩行のレベル。重症でも二本杖レベル
(カ)Genotype-phenotype correlationはない
(3)検査所見
(ア)頭部MRI:小脳下葉も含む小脳全体の萎縮、他の変化はない
(イ)末梢神経伝導速度:正常
(ウ)筋生検:神経筋接合部の下からの筋核の逸脱(診断的意義は不明)
(エ)電気生理学的には神経筋接合部の異常はない
(4)診断方法
(ア)SYNE1遺伝子
(イ)末梢血白血球でも発現
(ウ)全てがナンセンス変異、発現量の低下を伴うと推察される
(エ)7種類見つかっている、しかし、約20%はいまだ未同定
(5)本疾患を疑う場合の重要な点
(ア)劣性遺伝形式の成人期発症の皮質性小脳萎縮症
(イ)孤発性の小脳萎縮症(いわゆるLCCA)
(ウ)画像所見が小脳に限局
(エ)症状は自立歩行できる程度の体幹失調で、構音障害は必ず伴う
(オ)進行は極めて緩徐
■治療
純粋小脳型では、小脳性運動失調に対しても、集中的なリハビリテーションの効果があることが示唆されている。バランス、歩行など、個々人のADLに添ったリハビリテーションメニューを組む必要がある。リハビリテーションの効果は、終了後しばらく持続する。
(下図宮井一郎先生からのご提供 平成22年度 運動失調症の病態解明と治療法開発に関する研究 研究代表者 西澤 正豊 報告書より)
薬物療法としては、失調症状全般にセレジスト®(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体)が使われる。本薬剤の有効性が確かめられたモデルマウスの一つはSCA6や片頭痛を伴う失調症の原因遺伝子であるカルシウムチャネル(CACNA1A)の点変異マウスである。しかし、実際の使用経験では、本薬剤の効果に病型毎の明確な差は報告されていない。
疾患毎の症状に対して対症的に使われる薬剤がある。MJD/SCA3の有痛性筋痙攣に対する塩酸メキシレチン、SCA6などの周期性の失調症状、めまい症状に対するアセタゾラミド等が挙げられる。
ポリグルタミン病に関しては、ポリグルタミン鎖、もしくはそれが影響を及ぼす蛋白質や細胞機能不全をターゲットとした治療薬の開発が試みられているが、現在の所、有効性があるものはない。
■予後
予後は、病型により大きく異なる。またポリグルタミン病は症例の遺伝子型の影響を受ける。
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最終編
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