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難病特集:家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)
       


家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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1)背景


家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)は、low density lipoprotein (LDL)受容体遺伝子変異による単一遺伝子疾患であり、常染色体優性遺伝形式をとる[1]。ヘテロ接合体患者は500人に1人以上、ホモ接合体患者は 100万人に1人以上の頻度で認められ、わが国におけるFH患者総数は、30万人以上と推定される。遺伝性代謝疾患の中でもFHは最も高頻度であり、日常 診療において高頻度で遭遇する。FHは高LDL-コレステロール血症、腱黄色腫および若年性冠動脈硬化症を主徴とする。FHの動脈硬化の進展速度は遺伝的 な背景のない高脂血症に比べて早く、それに伴う臓器障害の程度も強いため、高LDL-コレステロール血症に対する治療は動脈硬化予防を目的としたものとな る。近年、頻度は稀ながらFHと同様の病態を引き起こす他の遺伝子の変異も報告されている(表1)[2-6]。これらの遺伝性高コレステロール血症についても、ここに述べるFHの治療方針は適切であると考える。
高LDLコレステロール血症や冠動脈疾患のハイリスク群に対して、スタチンを用いた多数の大規模臨床試験の結果から、LDLコレステロール値の低下によ る一次予防[7-13]および二次予防[10, 14-16]の効果が欧米を初め日本においても報告されている。これに基づき日本でもLDLコレステロールを主要標的とした動脈硬化予防のためのガイドラ インが設定されている。しかしながら、大規模臨床試験は、FHのような著明な高LDLコレステロール血症のみを対象としていないこと、また、FHは乳幼児 期より長期間にわたり高LDLコレステロール血症にさらされていることから、遺伝的な背景のない通常の高コレステロール血症に比べて動脈硬化の進展とそれ に伴う臓器障害の程度が著しく、診療上特に注意が必要である。動脈硬化予防のためのガイドライン[17-20]の中で、FHは、冠動脈疾患のハイリスクグ ループに相当するとして、早期診断や早期治療の重要性が説かれている。しかしその診療に当たって臨床所見から定量的に診断し、治療を行う指針として充分に 整備されておらず[21-23]、未だコンセンサスが得られていない。このようなことから原発性高脂血症調査研究班では、日本人におけるFHの診断、治療 を中心とした診療ガイドラインを提案する。


表1 FHおよび類縁疾患



疾患名 

変異遺伝子

遺伝型式 

FH
Familial hypercholesterolemia (FH) LDLR Dominant
FH類縁疾患
Familial defective apo B-100 (FDB) Apo B Dominant
Autosomal dominant hypercholesterolemia (FH3) PCSK9 Dominant
Autosomal recessive hypercholesterolemia (ARH) ARH Recessive
Cholesterol 7 alpha-hydroxylase deficiency CYP7A1 Recessive
Familial sitosterolemia ABCG 5 or ABCG 8 Recessive
Hypercholesterolemia associated with rare apo E apo E Dominant or Recessive


2)FHの病因


FHは、LDL受容体の遺伝子変異によりLDL受容体蛋白が欠損しあるいはその機能が大きく障害されて、 高LDL血症が引き起こされる先天的疾患である。LDL受容体遺伝子の1つの対立遺伝子に変異を認める場合をFHヘテロ接合体、2つの対立遺伝子に同じ変 異を認める場合をFHホモ接合体と呼び、常染色体性優性遺伝型式をとる[24]。2つの対立遺伝子に異なった変異を認める二重ヘテロ接合体の病態はFHホ モ接合体と同様である。通常血漿LDLの約70%が肝臓で代謝されるが、ヘテロ接合体患者の肝臓でのLDLの代謝は、健常人の約50%、ホモ接合体患者で は約10%に低下しており、低下の程度に反比例して血漿LDL濃度は上昇し、血管壁へのコレステロールの沈着のリスクが高まる[25]。そのため、FH患 者では若年より高LDLコレステロール血症を示し、それに起因する若年性動脈硬化症が冠動脈を中心に好発する。


3)FHの臨床像


FHヘテロ接合体の臨床所見で最初に現れるのは、高コレステロール血症である。多くの例において出生時よ り明らかな高LDLコレステロール血症が認められるが[26]、これが唯一の臨床症状である[27]。角膜輪や腱黄色腫は10歳台後半から現れ、30歳ま でに半分の症例に現れる。死亡するまでには、80%の症例でこれらの症状が出現する[28]。冠動脈疾患は、男性で40歳以降、女性で50歳以降に現れる と言われているが[29, 30]、これより若年齢で発症するという報告もある[31]。
FHホモ接合体は、出生時より著明な高LDLコレステロール血症を呈し、皮膚黄色腫が特徴的である[32, 33]。アキレス腱黄色腫、角膜輪、全身性動脈硬化症は、小児期において著明に進行する。動脈硬化症は、冠動脈だけでなく大動脈弁にも進行し、特徴的な弁 上狭窄、弁狭窄を形成する[34-36]。


A) FHの血清脂質値


FHヘテロ接合体の血清総コレステロール値の平均は、320~350 mg/dlであり、日本[29, 37]および欧米[28, 38]の報告でも同様であるが、いずれの場合も個々の症例による血漿コレステロール値のばらつきは大きい。FHホモ接合体の血清総コレステロール値は 600~1,200 mg/dlであり、FHヘテロ接合体よりはるかに高値をとる。FHの血清中に増加しているコレステロールは主にLDLであり[29, 37, 38]、Ⅱa型の高脂血症病型を示す例が多い。しかし、FHヘテロ接合体、FHホモ接合体いずれにもトリグリセライドの増加を認める例が認められ、これら はⅡb型となる。原発性高脂血症調査研究班1996-1998年の報告では、FHホモ接合体19例中4例、FHヘテロ接合体641例中130例はⅡb型で あった[37]。FHにおいては、LDL受容体欠損のため、VLDLなどのトリグリセライドを含むリポ蛋白の代謝も遅延することが一因ではないかと考えら れている。HDLコレステロールは健常人に比べてホモ接合体、へテロ接合体いずれも、やや低下している傾向があるが[27, 39]、原因はわかっていない。


B) FHの黄色腫


FH患者の皮膚や腱にLDL由来のコレステロールが沈着し、皮膚黄色 腫、腱黄色腫と呼ばれる。黄色腫の頻度は、LDL値の上昇の度合いと期間の長さに比例する[1]。黄色腫は、皮膚では肘関節、膝関節の伸側、手首、臀部な ど、機械的刺激が加わる部位に多く発生する。外傷部位や縫合部位にも発生する。腱黄色腫はアキレス腱のものが一番良く知られており、診断に用いられるが、 手背伸筋腱にも発生する[40]。視診のみでも診断できることがあるが、触診がもっとも重要であり、正常と比較して硬く、肥厚したアキレス腱が触診され る。アキレス腱肥厚には左右差がほとんどないが、一側のみ肥厚する場合もある。極端な左右差がある場合はむしろアキレス腱の断裂の既往やその手術痕を疑う べきである。腱黄色腫によりアキレス腱に自発痛、圧痛、歩行時の疼痛を訴えることがある。一方、眼瞼黄色腫はFHに特異的なものではなく、正脂血症の患者 にも認められる[41]。


C) FHと動脈硬化


FHホモ接合体では、大動脈弁上狭窄、弁狭窄、冠動脈狭窄が、乳幼児 期に出現し、進行して30歳までに狭心症、心筋梗塞、突然死を引き起こすことが知られている[32, 38, 42]。胸部大動脈、腹部大動脈や肺動脈にも強い動脈硬化を引き起こす[42]。一方、脳血管は比較的動脈硬化の進行が遅い[43]。
FHホモ接合体と比べ、FHヘテロ接合体に於ける動脈硬化の起こり方には、症例による個体差が大きい。FHヘテロ接合体についての欧米における5つの主 要な観察研究結果[44-48]によれば、男性では40歳代で20%が冠動脈疾患を有し、50歳代で45%、60歳代で75%に増加を認めるという。一 方、女性では、40歳代で3%、50歳代で20%、60歳代で45%、70歳代で75%であり、男性の方が冠動脈疾患を罹患する年齢が若く、罹患頻度も高 いことがわかる。わが国においても同様で、原発性高脂血症班による調査では、冠動脈疾患の罹患数は、男性で40歳から、女性で50歳から増加し、男性のほ うが高い頻度を示すことが報告されている[37]。FHヘテロ接合体において、冠動脈疾患発症のリスク解析では、男性、加齢、喫煙[49]、高血圧 [50]、糖尿病、高トリグリセライド血症[50]、低HDL血症[51]、高Lp(a)血症[52, 53]、BMIなどが報告されている[37, 54]。
冠動脈硬化のほか、若年性動脈硬化は大動脈には腹部大動脈瘤として現れることがあり、その頻度は約26%と報告されている[55, 56]。一方、馬渕らは、脳血管疾患については、FHの死亡例41例の中での脳卒中死亡率が、一般日本人のものと違いがないことを報告しており[57]、 United Kingdom based Simon Broome Familial Hypercholesterolemia Register Groupは、FHの男性1,405例、女性1,466例について脳卒中の死亡の比率が一般人口と違いがないと報告している[58]。一方、フィンランド においてはFH54例の前向き調-査で、脳梗塞の頻度は、一般人の20倍であったと報告されている[59]。閉塞性動脈硬化症は、8-16%のFH例に合 併する[45, 47, 48]。頚動脈や大腿動脈エコー所見では、内膜―中膜の厚さがFHにおいて肥厚していると報告されている[60-63]。特殊な例として、頭蓋内の巨大な コレステロール顆粒腫の発症の報告がある[64]


4)FHの診断


A) FHホモ接合体の診断


FHホモ接合体は、血清総コレステロール値が600 mg/dlを超えること、皮膚黄色腫の存在、両親がFHへテロ接合体であることなどが、診断上の根拠となる。線維芽細胞やリンパ球におけるLDL受容体活 性の低下[65](正常の20%以下)、LDL受容体遺伝子変異でもって診断を下すことも可能である。皮膚黄色腫を主訴として、皮膚科を最初に受診するこ ともある。
鑑別診断上、FHヘテロ接合体の重症例との区別が困難である場合があること、また、Pseudohomozygous type 2 hypercholesterolemiaと臨床的に混同されることがある。Pseudohomozygous type 2 hypercholesterolemiaは、著明なLDL増加による高コレステロール血症(血清総コレステロール値350~700 mg/dl)、皮膚黄色腫を示すが、両親は通常、正脂血であり、食事療法と胆汁酸吸着剤の内服が著効してコレステロール値は正常化すること [66-68]、LDL受容体活性に異常がない点でFHと区別ができる。また、LDL受容体の遺伝子自身ではなく、その生体内での機能発現機構に異常があ ると考えられるautosomal recessive hypercholesterolemia (ARH) は、ヘテロ接合体は無症状であるが、ホモ接合体は臨床上FHホモ接合体と区別できない[69-71]。


B) FHヘテロ接合体の診断


FHヘテロ接合体の診断は、未治療時のLDLコレステロール値が高値 であること、アキレス腱黄色腫や角膜輪などの高LDL血症に伴う身体症状、若年性冠動脈疾患(発症年齢:男性55歳未満、女性65歳未満)の存在が診断の 根拠となる。また、若年性冠動脈疾患や高LDL血症の家族歴も診断の助けとなる。診断基準を表2-1(成人用)表2-2(小 児用)に記す。15歳以上ではFHへテロ接合体と健常人のLDLコレステロール値の境界値は161-163 mg/dlであると報告されており[72]、30歳から79歳までの健常人の90%が160 mg/dl以下であることから[73]、スクリーニングとして160 mg/dlの値を用いた。 FHへテロ患者の少なくとも90%はこの範囲に入ることから、スクリーニングされた症例の50~60例に1例程度がFH患者ということになる。15歳未満 のLDLコレステロール値については、健常児の95%が140 mg/dl以下であることから[74]、スクリーニングとして140 mg/dlの値を用いた。この場合、同様の予測で25例に1例程度がFH患者となる。また、97パーセンタイルの値で15歳以上が180 mg/dl、15歳未満が160 mg/dlの値を用いたが、この場合スクリーニングされた症例の15~20例に1例がFH患者である。LDL受容体活性は、健常人の80%未満でFHと診 断できる[75]。表2の基準を用いると、点数の合計が8以上でFHへテロ接合体を確定診断、6以上8未満ではFHへテロ接合体の疑いが濃い、3以上6未 満ではFHの疑いがある、となる。
鑑別診断は、二次性高脂血症をきたす基礎疾患(甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群など)を除外したあと、類似疾患である家族性複合型高脂血症 (FCHL)などを除外することが重要である。FCHLは腱黄色腫を合併しないこと、家系内に、他のタイプの高脂血症(Ⅱb型、Ⅳ型、Ⅴ型)の患者が存在 すること、子供ではLDLコレステロール値がFHほど上昇しないことなどから鑑別される[76, 77]。アポBの異常によるFamilial Defective Apolipoprotein B-100 (FDB)[2, 78] は、症状や検査所見からはFHと区別できないが、日本での報告例は未だない[79]。PCSK9変異による高コレステロール血症もFHと同じ臨床的なフェ ノタイプを示す。

表2-1 FHへテロ接合体の臨床診断(成人用)



1.未治療時のLDLコレステロール値 
160-180 mg/dL, ---------------------------------------1点
180-200 mg/dL ---------------------------------------2点
>200 mg/dL------------------------------------------4点

2.家族歴(一親等)について
以下の項目に該当の場合-------------------------------2点
若年性冠動脈疾患(男性<55歳、女性<65歳)あるいは
LDLコレステロール値>180 mg/dL
ただしFHと確定診断されている場合-----------------------4点

3.黄色腫について以下の項目に該当の場合-----------------6点
腱黄色腫または、皮膚結節性黄色腫の存在が確認できる
X線軟線撮影またはゼロラジオグラフィーによるアキレス腱肥厚の判定
(側面で最大径9 mm以上)

4.若年性角膜輪(<50歳)あるいは若年性冠動脈疾患(男性<55歳、女性<65歳)を認める場合-----------------------------------4点

5.LDLレセプター遺伝子変異が認められた場合--------------8点

LDLレセプター活性低下(健常人の80%未満)は、診断の参考になり得る。

各項目の合計点数が 
6点以上でFH疑い
8点以上でFHと確定診断とする。


表2-2 FHへテロ接合体の臨床診断(小児用)



1.LDLコレステロール値  
140-160 mg/dL---------------------------------------4点
160-180 mg/dL --------------------------------------5点
>180 mg/dL ----------------------------------------6点

2.家族歴(両親)について
以下の項目に該当の場合-----------------------------2点
若年性冠動脈疾患(男性<55歳、女性<65歳)あるいは
LDLコレステロール値>180 mg/dL
ただし、FHと確定診断されている場合----------------4点

3.黄色腫について以下の項目に該当の場合-------------6点
腱黄色腫または、皮膚結節性黄色腫の存在が確認できる。
X線軟線撮影またはゼロラジオグラフィーによるアキレス腱肥厚の判定
(側面で最大径9mm以上)

4.LDLレセプター遺伝子変異が認められた場合---------8点

LDLレセプター活性低下(健常人の80%未満)は、診断の参考になり得る。

各項目の合計点数が 
6点以上でFH疑い
8点以上でFHと確定診断とする。



a) FHヘテロ接合体のリスクの診断


FHヘテロ接合体患者の臨床症状は、症例によって動脈硬化の発症年齢 や進展速度大きな幅があることが知られている[29]。FHヘテロ接合体の動脈硬化発症、進展を決定しにている主要リスク因子として、年齢、性別、アキレ ス腱肥厚、LDL受容体遺伝子変異の部位、HDL-コレステロール値などが報告されている[29, 49-52, 54, 61, 80-88]。これらの主要リスク因子を表3に示す。これらの主要リスク因子の数を評価して、治療の指標とすることができる。

表3 FHヘテロ接合体の主要なリスク因子

1 年齢
男性:≧30歳
女性:≧45歳または閉経後
2 喫煙:現在の喫煙
3 若年性冠動脈疾患 (一親等の親類の男性<55歳あるいは女性<60歳)の家族歴
4 未治療時のLDLコレステロール:>270 mg/dLあるいはアキレス腱厚(>15 mm)
5 HDLコレステロール:<40 mg/dL またはトリグリセライド:>150 mg/dL
6 糖尿病(耐糖能異常を含む)
7 高血圧(>140/90)


b) FHヘテロ接合体のリスクカテゴリー


個人のリスクに応じた治療を行うことは、国際的に認められている概念である[18]。FHヘテロ接合体において、所有する主要リスクの数(表3)に応じて中リスク群、高リスク群に分類する。

1.中リスク群:リスク1つ以下を有する
2.高リスク群:リスク2つ以上あるいは冠動脈、頚動脈などに明らかな動脈硬化による狭窄を認める


C)FHの動脈硬化の診断


FH患者は動脈硬化病変の発症進展が早い危険性が高く、へテロ接合体およびホモ接合体患者とも、半年に1度は専門医を受診、冠動脈疾患およびその他の動脈硬化性疾患の早期診断、早期治療に努めるべきである。FHヘテロ接合体は1~2年毎、ホモ接合体は半年~1年毎に図1に示す冠動脈疾患の診断を行う。また、このほかには、ankle-brachial blood pressure index (ABI)、頚動脈エコー、腹部エコーを行い、大腿動脈、頚動脈の動脈硬化および腹部大動脈瘤の評価を行う。


図1

図1

5)LDL受容体遺伝子と蛋白


LDL受容体は860個のアミノ酸からなる1本鎖の糖蛋白で、その遺伝子は第19番染色体短腕上に存在 し、全長約45 kbで、17個のイントロン、18個のエキソンからなる[89]。第1エキソンは、21個のシグナルペプチドのアミノ酸配列情報が含まれており、この配列 はLDL受容体蛋白が小胞体に移行する段階で切断されて839個のアミノ酸からなる成熟した蛋白となる[90]。第2エキソンから第6エキソンはLDL結 合領域のアミノ酸配列情報に対応している。第7~14エキソンは、EGF (epidermal growth factor) 前駆体と33%相同する400個のアミノ酸を持つEGF前駆体相同領域に対応している。この領域は、LDLと結合したLDL受容体が細胞内に取り込まれ、 エンドソームにおいてLDLと離れて再び細胞表面に戻り再利用(recycling)されるために必要な部分である[91]。第15エキソンは、O-結合 糖領域をコードしているが、この部分の詳しい機能は、わかっていない。第16エキソンと、第17エキソンの5’末端は、LDL受容体蛋白を細胞膜につな ぐ、細胞膜貫通領域の22個のアミノ酸配列情報を含んでいる。第17エキソンの残りの部分と、第18エキソンの5’末端領域は、細胞質領域の50個のアミ ノ酸に対応している。細胞質領域は、LDL受容体のコーテットピットへの局在と、極性のある肝細胞でのジヌソイド表面への局在を制御している[92, 93]。
現在明らかになっているLDL受容体遺伝子変異は、ミスセンス/ナンセンス変異 481、欠失変異 224、挿入変異75、スプライシング変異 58、挿入および欠失の複合変異 15、発現調節因子変異 12、Complex rearrangements 1と、合計866種類に及ぶ[94]。LDL受容体遺伝子変異にはその表現型によってClass 1からClass 5まで5つに分類される[1]。Class 1は、LDL受容体蛋白の発現が全く無いものであり、プロモーター領域の欠失変異や、大規模欠失変異などによる[95]。Class 2はLDL受容体がERからゴルジへの移送が阻害されるものである。LDL受容体はERでN-やO-結合糖が付加されて120kDaから160kDaにな る[96]。リガンド結合部位、EGF前駆体相同ドメイン領域の変異により、この過程が阻害される。Class 3は、正常な分子量のLDL受容体が合成され、細胞表面まで輸送されるが、LDLとの結合に障害があり、LDL結合部位およびEGF前駆体相同ドメイン領 域の変異による。Class 4は、LDLと結合した受容体の細胞内取り込みの障害であり、細胞質領域の変異による。Class 5は再利用機能の障害であり、LDLと結合したLDL受容体は細胞内に取り込まれるが、エンドソームでLDLと解離する段階が障害され細胞表面に戻ること ができない[91]。EGF前駆体相同領域の変異により起きる表現型である。
日本人において頻度の高い変異としては、エキソン7のC317S[97]、エキソン14のP664L[98]、エキソン17のK790X[99]などが報 告されている[100]。これらの遺伝子変異の結果、へテロ接合体ではLDL受容体活性は健常人の50%前後に、ホモ接合体では20%以下に低下してい る。ホモ接合体の中でも、LDL受容体活性がわずかに残存しているものはreceptor-defective type、LDL受容体活性が完全に失われているものはreceptor-negative typeと呼ばれる。FHホモ接合体の中でも、receptor-negative typeは若年齢での死亡率が高い[1]。


6)FHの治療


FHの治療の基本は、冠動脈疾患など若年齢で起きる動脈硬化症の発症および進展の予防であり、早期診断と 適切な治療が最も重要である。FHホモ接合体、ヘテロ接合体のいずれも出来るだけ早期に診断を下し、低脂肪食などの正しい食生活を子供時代から身につける と同時に、喫煙、肥満、などの動脈硬化症の増悪因子をしっかりと避け、高血圧や糖尿病を厳格にコントロールする。しかしながら、FHホモ接合体、ヘテロ接 合体ともに、生活習慣の改善のみでは、LDLコレステロール値を安全域まで充分に低下させることは困難であり[22]、以下に記述する薬物療法を必要とす る。


A) FHヘテロ接合体患者の治療


FHヘテロ接合体患者には、食事療法、体重のコントロール、適度な運動、禁煙、高血圧糖尿病のコントロールを厳格に行う。食事療法は、コレステロールの摂取を控えること(200 mg/day以下)、飽和脂肪酸の比率を低下させることを励行させる。


a) FHへテロ接合体患者のコントロール目標


FHヘテロ接合体のLDLコレステロール目標値は、患者が有する主要リスクに応じて設定する(表4)。すなわち、中リスク群は120 mg/dl、高リスク群は100 mg/dlとする。この目標値に到達しない場合、未治療時のLDLコレステロール値からの低下率として、中リスク群は50%、高リスク群は50%を治療目標の目安にする[21]。


表4 カテゴリーリスクに応じた目標LDLコレステロール値



カテゴリー 

主要リスクの数

目標LDLコレステロール値
(mg/dL)

中等度リスク 0~1 120
高リスク 2つ以上あるいは冠動脈、頚動脈などに明らかな動脈硬化による狭窄を認める 100


b) FHヘテロ接合体患者の薬物療法


FHヘテロ接合体患者に対する薬物療法については、コレステロール合成経路の律速酵素であるHMGCoA 還元酵素阻害薬(スタチン)が第一選択である。スタチンは、第一世代のスタチンとストロングスタチンと呼ばれる強力な作用を持つ第二世代のスタチンに分け られる。FHへテロ接合体に対して使用が報告されているスタチンは、第一世代のスタチンとしてプラバスタチン[101, 102]、シンバスタチン[103-105]、フルバスタチン[106, 107]があり、ストロングスタチンとしては、アトルバスタチン[108, 109]、ピタバスタチン[110, 111]、ロスバスタチン[112, 113]がある。FHヘテロ接合体に対しては、LDLコレステロール値の低下効率から考えると、ストロングスタチンが第一選択薬になる場合が多い。 スタチンは初期用量から増量し、LDLコレステロール値の低下効果は用量依存的であるが、副作用の頻度と重症度も増すことがある[114]。スタチンに加 えて、他の薬効を有する薬剤を併用すると、よりLDLコレステロールの低下効果が得られることが報告されている。スタチン単剤で充分な効果が得られない場 合、胆汁酸吸着レジンであるコレスチラミンやコレスチミド、コレステロール吸収阻害剤であるエゼチミブ、あるいはプロブコールなどが併用されている。胆汁 酸吸着レジンは、FHへテロ接合体に対して最初にコレステロールの低下効果が得られた薬剤であるが[115]、スタチンと併用することにより、LDLコレ ステロール低下に10-20%の追加効果を認める[116, 117]。胆汁酸吸着レジンは、副作用として便秘を引き起こすこと、トリグリセライドを増加させることが知られており、すべての患者に患者使用できるとは 限らない。エゼチミブは、小腸でのコレステロール吸収を選択的に阻害する薬剤であり、スタチンとの併用にてさらに14-25%のLDLコレステロール低下 効果を認める[21, 118]。プロブコールは、LDLコレステロールの低下作用があり、黄色腫の退縮を促すが[119]、つよいHDL低下作用[120]、QTの延長などの 副作用があり、動脈硬化に対する効果については意見が分かれている。 薬物治療開始後、3ヶ月間は毎月、問診で筋痛などの筋肉の症状の有無を問い、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライドを測定して効 果の判定を行うと同時に、AST、ALTなどの肝機能をはじめCPKを測定して、副作用の発現に注意する。3ヶ月後からは、3ヶ月に1回は上記の検査を行 い、副作用の中でも最も重篤な横紋筋融解症を見のがさないように注意する。


c) FHへテロ接合体患者の薬物療法と妊娠


出産可能年齢の女性にスタチンを投与する場合は、細心の注意が必要である。スタチンは妊娠中の薬剤の危険 性に関するFDAのカテゴリー分類で、「危険性があり投与禁忌であるカテゴリーX」に分類されているため、いかなる理由によっても妊婦への投与は正当化さ れない。妊娠初期にスタチンを服用した患者群で、高率に中枢神経系や四肢の奇形の報告がなされている[121]。


e) 小児のFHへテロ接合体患者の治療


薬物療法の開始は、小児についても主要リスクの有無に応じた対応を考慮すべきである[21]。主要リスク を1つでも有する場合、男児は10歳から、女児は思春期以後から薬物療法を開始すべきである。また、主要リスクを有しない場合、男性は18歳から、女性は 30歳から開始すべきである。主要リスクを有しない女性で、近い将来に妊娠の可能性がある場合は妊娠、出産、授乳が終了してから開始することも可能であ る。20歳以前に薬物治療を開始する際は特に副作用の発現の観察には細心の注意が必要である。目標のLDLコレステロール値は、主要リスクのない例で 140 mg/dl、主要リスクを有する例で120 mg/dlを目安とする。18歳未満のFHへテロ接合体患者の第一選択薬は、胆汁酸吸着レジンである。小児に対するスタチンの長期安全性のデータがまだな いためである。LDLコレステロール値が目標に達しない場合、スタチンの開始を考慮する。スタチンが、小児に対しても安全で有効であるという報告がある [131, 132]。IMTの肥厚を抑制するには、なるべく若年齢からスタチンを開始すべきである、という報告もある[133]。


B)FHホモ接合体の治療


a) FHホモ接合体の薬物療法


胆汁酸吸着レジンやスタチンなど、LDL低下薬の薬効の主要な部分はLDL受容体の活性の増加に依るもの であり、FHホモ接合体は、FHヘテロ接合体に比べて薬剤に対する反応性が非常に悪い。LDL受容体蛋白を全く持たないFHホモ接合体receptor- negative typeに対してはこうした薬剤は無効である[115, 134]。一方、LDL受容体蛋白を僅かながらも有するreceptor-defective typeに対しては、胆汁酸吸着レジンとスタチン、ニコチン酸などの併用療法が著効する例の報告もある[135]。しかし殆どの場合、FHホモ接合体に対 する薬剤のLDLの低下効果は極めて不充分で、1~2週間に1回のLDL-アフェレーシス治療が必要である。LDLアフェレーシス施行下に、FHホモ接合 体に対するアトルバスタチンの効果を調べた報告では、平均のLDLコレステロール値は20%低下したが、receptor-negative typeに対しては、ほとんど反応を認めなかった[136]。プロブコールは、FHホモ接合体に対しても一定の総コレステロール値の低下効果があり (LDLとHDLの低下)、またそれ以上に皮膚黄色腫の縮小、消失を認める報告がある[137, 138]。プロブコールはQT延長の副作用があるため[139]、定期的に心電図検査を実施する必要がある[140]。現在、FHホモ接合体に対する薬物 療法は、LDLアフェレーシス開始前の乳幼児に対して行い、LDLアフェレーシス開始後の患者に対しては、治療施行にて低下したLDLの再上昇を抑制する 補助的な目的で行う。コレステロール吸収阻害剤であるエゼチミブが、FHホモ接合体のコレステロール値の再上昇を遅らせる効果があることが報告された [141]。


b) FHホモ接合体のLDLアフェレーシス療法


  1)LDLアフェレーシスの治療開始時期


FHホモ接合体はLDL-アフェレーシスの絶対適応であり、できる限り早期にLDLアフェレーシス治療を 開始すべきである。現実的な治療開始の時期は、ベッド上で臥床し体外循環施行が可能となる4歳~6歳ごろからとなるが、3.5歳時に開始した例の報告もあ る[142]。乳児期にすでに冠動脈狭窄や完全閉塞、大動脈弁狭窄や弁上狭窄を有する例も存在し、開始の時期が遅くなるほど予後が悪くなるので、できる限 り早期に治療を開始することが勧められる[36]。


  2) LDLアフェレーシスの方法


現在、日本で行われているLDLアフェレーシス治療法には大きく分けて、単純血漿交換療法、二重膜濾過法、LDL吸着療法の3種類存在する。


   ⅰ) 単純血漿交換療法


単純血漿交換療法は、血漿成分を遠心分離法または膜分離法により分離除去して、ヒトアルブミン製剤を補う 方法である[143-145]。単純血漿交換療法により、LDLコレステロールは低下し、定期的に治療を継続することで、皮膚黄色腫や腱黄色腫は退縮する [146-149]。この方法では除去する物質に選択性がなく、血漿成分がすべて除かれるため、免疫グロブリンの低下、HDLの低下が問題になる。しか し、次に述べるより選択的なLDL除去を行う二重膜濾過法や選択的LDL吸着療法は体外循環量が大きく、体重が30 kg以下の小児には施行することができない。従って、本法がFHに対して行われるのは、こうした小児に限られる。


   ⅱ)二重膜濾過法


二重膜濾過法は、一次膜フィルターによって分離された血漿成分を二次膜フィルターにおいて分子の大きさで 篩いにかけ、巨大粒子であるVLDLおよびLDLを選択的に除去する治療法である[150-153]。VLDL、LDLの低下とともに、比較的大分子量を 持つHDL、免疫グロブリンやフィブリノーゲンにもある程度の低下を認める。本法は、選択性においては次に述べる選択的LDL吸着療法には及ばないが、低 コストであり[154]、黄色腫の退縮だけでなく、動脈硬化性病変の退縮の報告もある[155]。


   ⅲ)選択的LDL吸着療法


LDLがデキストラン硫酸に選択的に結合する事実をもとに日本で開発されたのがLDL吸着法である [156, 157]。血液を血球成分と血漿成分に分画した後、陰性に荷電したデキストラン硫酸をリガンドとして多孔質ビーズに固定したカラムを通過させ、プラスに荷 電したアポリポ蛋白Bを含むリポ蛋白(VLDL、LDL、Lp(a))を特異的に除去する方法である。アポBを含まない粒子は除去されず、HDLの低下を 認めない。LDL除去には、カラム(LA15)2本を用い、吸着されたLDLを高濃度NaCl (5%)によって溶出させ交互に用いる方法 (LA15システム)がとられている。この方法は、小容量のLDL吸着カラムの再利用を繰り返すことでその飽和によってLDL除去効果が失われることを防 いでおり、処理血漿量が増加してもLDL除去能の低下が起こらない、従って、体外循環量が小さく押さえられており、心負担が軽く、心機能低下や低体重の症 例にも比較的安全に使用できる。ただしLDL吸着カラムは陰性荷電を持つため、抗凝固剤にヘパリンを用いた場合、血液凝固系を活性化しブラディキニンが上 昇することが知られており、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤との併用はブラディキニン産生を急上昇させアナフィラキシー症状を引き起こすことが あるため禁忌である[158, 159]。抗凝固剤を併用をしなければならない場合、ナファモスタットメジレートに変更する必要がある[160]。LDL吸着療法は、LDLを低下するの みでなく、細胞接着因子(ICAM-1、ELAM-1など)の発現抑制[161]、フィブリノーゲン、凝固因子の低下などによる血栓形成の抑制[162, 163]、血液粘度の改善[164]、LDLの亜分画の改善[165]、LDLの被酸化能の改善[166, 167]、アフェレーシス施行後のHDLの上昇[168]血管内皮機能の改善[169]などを通しても抗動脈硬化作用をもつことが期待されている。


  3)FHホモ接合体に対する LDLアフェレーシスの長期治療効果


FHホモ接合体に対するLDLアフェレーシス治療の長期効果については、皮膚黄色腫の退縮、狭心症の症状 の軽快、冠動脈の動脈硬化性病変の進展の抑制、退縮効果など、長期間の良好な治療効果の報告も多い[36, 122, 125, 170]。一方、FHホモ接合体に対して、LDLアフェレーシスの導入が遅れると、心筋梗塞での死亡例の報告もあり[125]、早期のLDLアフェレーシ スの導入が望まれる。


c) FHホモ接合体に対するその他の治療法


FHホモ接合体に対して、門脈下大静脈吻合術、肝臓移植、遺伝子治療などが行われたことがある。


  1)門脈下大静脈吻合術


FHホモ接合体患者に対して、門脈下大静脈吻合術(portacaval shunt)が行われていたことがあり、コレステロール値の改善、黄色腫の退縮を認めている[171-176]。わが国でも1例の報告があるが、侵襲が大 きい割に効果が少なく[177]、LDLアフェレーシスにてLDLコレステロールの低下が可能になった現在は、行われていない。


  2)肝臓移植


FHホモ接合体に対して、心肝同時移植が行われたことがある[178, 179]。肝移植後数日にして血清コレステロール値は前値の4分の1以下になり、さらにスタチンを併用することにより、血清コレステロール値は正常化した [180]。また我が国でも生体肝移植例の報告がある。しかし、死亡例の報告も複数あり、侵襲が大きい上に免疫抑制剤を長期に使用しなければならないこと など、その長期予後に対する評価は定まっていない。


  3) 遺伝子治療


FHホモ接合体患者に対して、ex vivo法を用いた遺伝子治療の臨床試験が報告されている[181, 182]。5例のFHホモ接合体患者に対し、肝臓を切除して肝細胞を取り、培養してレトロウィルスを用いてLDL受容体遺伝子を導入し、門脈カテーテルを 介してLDL受容体を発現している肝細胞を再注入する方法である。5例のうち、3例に6-25%のLDLコレステロール値の低下を認め、4ヶ月後の肝生検 において、5例すべてにおいてLDL受容体の発現を認めたと報告された。この遺伝子治療の1例目の報告[182]がなされた直後に、LDL受容体の発見者 であるBrown、Goldsteinらは、その有効性に疑問を呈している[183]。彼らは、LDL受容体の機能が低下しているタイプ (receptor defective type)の場合、手術の侵襲のために、内因性のLDL受容体の発現を増強してLDLコレステロールが低下する場合があるため、導入遺伝子が発現している ことを検証することが重要であるというコメントが掲載された[183]。その後、この治療は行われていない。有効なベクターの開発が待たれている。




















    

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