難病特集:下垂体機能低下症
下垂体機能低下症に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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■概要定義
下垂体前葉から分泌されるACTH、TSH、GH、LH,、FSH、PRLの単独ないし複数のホルモン分泌障害により、主として末梢ホルモン欠乏による多彩な症状を呈する疾患である。病因は、下垂体自体の障害と、下垂体ホルモンの分泌を制御する視床下部の障害、および両者を連結する下垂体茎部の障害に分類される。実際は障害部位が複数の領域にまたがっていることも多い。なお後葉ホルモン(バソプレシン)分泌障害は中枢性尿崩症として別に扱われる。
すべての前葉ホルモン分泌が障害されているものを汎下垂体機能低下症、複数のホルモンが種々の程度に障害されているものを部分型下垂体機能低下症と呼ぶ。また単一のホルモンのみが欠損するものは、単独欠損症と呼ばれる。
■疫学
平成13年に行われた成人下垂体機能低下症全国疫学調査では1464名の受診者が確認されている。しかしこの調査は、調査対象が部分的であること、回答率が低いことなどから、実態を反映していない可能性が高い。また最近では脳外科手術に合併する例、炎症性疾患に起因する例の報告が増加している。さらに無症状の場合は受診していない患者が多いことを考慮すると、実際の患者数ははるかに多いものと推察される。
■病因
汎ないし部分型下垂体機能低下症では、脳下垂体領域の器質的疾患、特に腫瘍(下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫瘍など)、炎症性疾患(肉芽腫性疾患としてサルコイドーシス、ランゲルハンス組織球症、IgG4関連疾患など、自己免疫性炎症性疾患としてリンパ球性下垂体炎など)、外傷手術によるものが最も多い。分娩時大出血に伴う下垂体壊死(シーハン症候群)の頻度は低下している。一方、単独欠損症はGHやACTHに多く、前者では出産時の児のトラブル(骨盤位分娩など)が、後者では自己免疫機序の関与が示唆されている。稀に遺伝性異常に起因する例があり、PIT1(TSH, GH, PRL 複合欠損)、PROP1 (TSH, GH, PRL, LH, FSH複合欠損)、TPIT (ATCH)、GH、SHOX、GRHR (GH) などが知られている。Kallmann症候群の原因遺伝子であるKAL1 などの視床下部遺伝子異常は LH, FSH 欠損による先天性性腺機能低下症の原因となる。
■症状
欠損するホルモンの種類により多彩な症状を呈する。
欠乏する下垂体ホルモン 欠乏する末梢ホルモン 出現しやすい症状
ACTH 副腎皮質ホルモン 続発性副腎不全(倦怠感、低血圧、食欲不振、低血糖や低ナトリウム血症による意識障害など)
TSH 甲状腺ホルモン 続発性甲状腺機能低下症(倦怠感、耐寒性の低下、皮膚乾燥、脱毛、除脈、低体温、発語障害、集中力記憶力低下、進行すると粘液水腫や意識障害など)
GH IGF-I 小児: 低血糖、成長障害(低身長)など
成人: 体脂肪増加、筋肉量骨塩量低下、気力活動性低下など
LH, FSH 男性ホルモン
女性ホルモン 小児-思春期: 二次性徴の欠如、進行停止、脱落など
成人男性: 性欲低下、ED、精子形成不全、不妊など
成人女性: 稀発ないし無月経、不妊など
プロラクチン なし 授乳中の乳汁分泌低下
■臨床
診断の手掛かり
下垂体機能低下症は、欠乏するホルモンの種類や程度によって多彩な症状を呈する。また非特異的な症状のみを示すことも多く、疾患を見落とさないように細心の注意を払う必要である。
診断の手掛かりとなるような、ホルモン欠乏による所見と注意点を以下に列挙する。
● ACTH: 続発性副腎不全の所見として、低血糖、低ナトリウム血症や好酸球増加が手掛かりとなることがある。
● TSH: 耐寒性低下や除脈などの甲状腺機能低下症状を呈するが、原発性と比較して軽度であることが多い。
●GH: 小児では発育障害(低身長)を早期に見出すことが重要である。発見が遅れると骨端線が閉鎖し、GH治療が無効となる。成人では特異的な所見に乏しい。
● LH, FSH: 思春期以後の二次性徴欠如で気づかれることが多く、発見が遅れやすい。
●プロラクチン: 血中プロラクチン基礎値の上昇が視床下部下垂体の器質的疾患を発見する手掛かりとなることがある。
また間脳下垂体領域の器質的疾患を示唆する所見を以下に示す。
● 慢性頭痛: トルコ鞍内の器質的疾患で生じることがある。
● 多飲多尿: 後葉障害を合併すると発症する。
● 視力視野障害: 腫瘍などの視交叉圧迫による半耳側半盲により生じる。
診断手順
● 下垂体ホルモンおよび末梢ホルモン基礎値の測定
血中ACTH, GH, TSH, LH, FSH, PRL およびコルチゾール, IGF-I, 性ホルモンの測定を行なう。しかしこれらは必ずしも診断の決め手にならないことが多い。
IGF-I および性ホルモン値は年齢性を考慮した基準値を参照して判断する。
● 下垂体前葉機能検査
通常 CRH, TRH, GnRH, GHRH 4者負荷試験を施行し、下垂体ホルモン分泌予備能を評価する。通常コルチゾールも同時に測定する。
● 視床下部下垂体領域の画像検査
MRI ないし CT 検査により、基礎疾患の有無を検索する。
■治療
基礎疾患に対する治療
原因となっている腫瘍性ないし炎症性疾患が存在する場合は、正確な診断のもとに、各々の疾患に対する適切な治療法を選択する。
ホルモン欠乏に対する治療
下垂体機能低下症に対しては、欠乏するホルモンの種類や程度に応じたホルモン補充療法が行われる。下垂体ホルモンはペプチドないし糖蛋白ホルモンのため、経口で投与しても無効である。このため通常、各ホルモンの制御下にある末梢ホルモンを投与する。GHのみは、それ自体を注射で投与する。
以下に、各ホルモンごとの補充療法の概略を示す。
● ACTH分泌不全: 通常ヒドロコルチゾン 15 -20 mg/日を、朝 10-15 mg、昼または夕 5 mg補充する。感染症、発熱、外傷などのストレス時は 2- 3倍に増量する。
● TSH分泌不全: ACTH 分泌不全と合併する場合は、ヒドロコルチゾン補充開始 5- 7日後に開始する。通常少量 (12.5-25 μg/日)から開始し、2-4週間ごとに徐々に増量、末梢血甲状腺ホルモン値が FT4基準範囲上限、FT3基準範囲となる量を維持量とする。
●GH分泌不全: 小児に対しては早期からGH注射を開始し、最終身長の正常化を目標とする。成人に対しては、重症GH欠損であることをGHRP2試験で確認の上、比較的少量からGHの自己注射を開始し、血中IGF-I 値を目安として維持量を決定する。
● LH, FSH分泌不全: 男性では男性機能の維持を目的としてエナント酸テストステロンデポ剤の注射による補充 (2-4週に1回)を、女性では無月経の程度によりプロゲストーゲン剤(ホルムストルーム療法)やエストロゲン剤プロゲストーゲン剤併用(カウフマン療法)を行なう。一方、妊孕性獲得を目的とする男性ではhCG-hMG(FSH)療法を、挙児希望を目的とする女性では排卵誘発療法(第1度無月経ではクロミフェン療法、第2度無月経ではhCG-hMG(FSH)療法やLHRH間欠投与法)を行なう。
● プロラクチン分泌不全: 補充療法は通常行われない。
■ケア
ACTH欠損症患者に対するヒドロコルチゾンの補充は、従来 20-30 mg/日の量が用いられていた。しかし昨今の生活習慣の変化により、メタボリックシンドロームを来す例が増加しつつある。このため現在では 15 mg/日の維持量が推奨される。一方で、ストレス時には 2-3 倍に、麻酔を伴う大手術時には 10倍以上に増量しないと、相対的副腎不全を来す可能性がある。患者に対する服薬指導を徹底するとともに、患者が補充療法中であることを示すステロイドカードを持参させることが望ましい。
■食事栄養
患者が適切な量のホルモン補充療法を受けている場合、健常者と同様の食生活を行うことが可能である。ただし前述のごとくヒドロコルチゾン補充中の患者はメタボリックシンドロームに陥りやすいため、過食肥満に陥らないよう栄養指導を行うことが望ましい。
■予後
ホルモン補充療法(副腎皮質ステロイド、甲状腺ホルモン)が適切に行われている場合、予後は一般健常者とほとんど差がないことが近年の疫学的調査により確認されている。一方、GH補充療法ならびに性ホルモン補充療法が予後に及ぼす効果に関しては、未だ一定の見解は確立されていない。現時点では、患者のQOL改善効果を期待して一部の患者に行われているのが現状である。
■最近のトピックス
下垂体機能低下症は平成22年度より厚生労働省難治性疾患克服研究事業の対象疾患として、公費医療助成の対象疾患に指定された。患者から認定の依頼があった場合は、提出された申請用紙に医学的な必要事項を記入した上で、患者から各都道府県に申請し、審査を受けることになる。
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