難病特集:ギランバレー症候群
ギランバレー症候群に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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‖概念定義
ギランバレー症候群(GBS)は、急性の運動麻痺をきたす末梢神経障害であり、多くの場合(約7割)呼吸器あるいは消化器感染の後に発症する。従来から末梢神経ミエリンを標的とする脱髄性多発神経炎と考えられてきたが、近年プライマリーに軸索障害をきたす軸索障害型の存在が認識されるようになってきた。
‖疫学
GBSの発症は、報告により異なるが10万人当たり年間1人ないし2人とされている。どの年齢層にもみられ、男性が女性よりもやや多い。
‖病因
GBSは自己免疫機序に基づく疾患であり、細胞性免疫及び液性免疫のそれぞれの関与を示唆する報告がある。本症の発症に先行する感染が重要な役割を果たすと考えられる。
GBSの実験モデルとされているexperimental autoimmune neuritis (EAN)では末梢神経ミエリンの蛋白に対する細胞性免疫反応が主な病態である。GBSにおいても、リンパ球およびマクロファージの末梢神経への浸潤が重要な役割を果たすと考えられる。しかし疾患特異性と高い陽性率を示す特定の抗原に対する細胞性免疫反応の存在が確認されるには至っていない。
一方、血漿交換療法がGBSの治療に有効であることから、自己抗体についての検討がすすめられた。その中で、神経系の細胞膜の構成成分である糖脂質(とくにガングリオシド)に対する抗体が、GBS急性期の約60%の血中に上昇していることが明らかになった。なかでも抗GM1抗体の陽性率が高い。抗体価は急性期にもっとも高く経過とともに低下消失する。このような抗糖脂質抗体の急性期における上昇とその後の低下消失は、GBSに特異的な所見であり、病態との関連が示唆される。糖脂質あるいはガングリオシドにはさまざまな分子種があり、それぞれ独特の神経組織内での分布を示す。抗糖脂質抗体は標的となる糖脂質抗原の局在する部位に特異的に結合して障害部位を規定する因子となると考えられる。その例としては、抗GQ1b抗体と眼球運動麻痺の関連などがあげられる(フィッシャー症候群の項参照)。また深部感覚を伝える一次感覚ニューロンに局在するGD1bの感作により、ウサギに深部感覚障害のための失調性ニューロパチーをきたすことが示されたことは、前記の仮説を支持するものである。抗GM1抗体上昇を伴ったウサギの軸索型GBS動物モデルも報告されており、Ranvier絞輪部に抗体が結合し、補体の活性化が起こって神経障害をきたすことが示されている。さらに最近では、単独ではなく二種類のガングリオシドの糖鎖が相互作用して形成するガングリオシド複合体に対する抗体も報告されている。
抗糖脂質抗体の産生メカニズムとしては、先行する感染の感染因子(細菌など)がガングリオシドなどのヒトの神経に存在する糖脂質類似の糖鎖構造をもっており、それに対する免疫反応として抗糖脂質抗体が産生されるという「分子相同性仮説」が提唱されている。GBSに先行する消化器感染は多くがCampylobacter jejuniによるものであるが、C. jejuni感染後には抗GM1 IgG抗体が上昇することが多く、C. jejuniはGM1ガングリオシド様の糖鎖をもつことが示されている。またマイコプラズマ肺炎後のGBSでは抗galactocerebroside抗体が上昇するが、Mycoplasma pneumoniaeの菌体にはgalactocerebroside様の糖鎖構造が存在することが報告されている。
その他にも各種サイトカイン、matrix metalloproteinasesやnitric oxideなどの液性因子もGBSの発症メカニズムに関わっていると考えられる。
‖症状
四肢の筋力低下を主徴とするが、異常感覚を含めた感覚障害を伴うことも多い。顔面神経麻痺、眼球運動麻痺や嚥下構音障害などの脳神経障害を伴うこともある。症状の極期には呼吸筋麻痺や自律神経障害を呈する例もある。腱反射は低下ないし消失する。
‖治療
GBSは単相性の疾患であり、急性期を過ぎれば回復に向かう。しかし病状の極期には呼吸筋麻痺をきたして人工呼吸器が必要となったり、高血圧低血圧、血圧の変動、頻脈、徐脈などの重篤な自律神経障害を伴う症例もあることから、急性期の全身管理がきわめて重要である。また回復期にはリハビリテーションも必要である。さらに軽症例を除いて、急性期の自己免疫機序のコントロールのために、プラズマフェレーシスや免疫グロブリン大量療法(IVIg)を行う。
プラズマフェレーシスには単純血漿交換療法、二重膜濾過法、免疫吸着療法がある。このうち単純血漿交換療法については、大規模な比較対照試験により、ピーク時の重症度が軽減されたり回復が早まることなどが確認されている。二重膜濾過法と免疫吸着療法については、多数例の比較対照試験は行われていないが、臨床的に単純血漿交換療法と有効性に差はないと考えられている。わが国では患者の負担を考えて二重膜濾過法や免疫吸着療法が選択されることも多い。血圧低下感染症静脈血栓症などの副作用に注意する必要がある。
IVIgは体重1kg当たり1日0.4gの免疫グロブリンの静注を5日間施行するという治療法であり、その治療効果は単純血漿交換療法と同等である。IVIgの効果発現の機序は明らかではないが、抗イディオタイプ抗体の存在、マクロファージのFcレセプターのブロックなどいくつもの可能性があげられている。副作用としては頭痛、筋痛、軽度の肝酵素の上昇、好中球減少、血栓・塞栓などが報告されている。プラズマフェレーシスと比較して簡便なこともあり、近年ではIVIgが治療として選択されることが多い。
ステロイド剤は、単独では経口投与、パルス療法とも有効性は認められていない。パルス療法とIVIgを組み合わせて用いるとIVIg単独より効果が高いという報告もあるが、大規模な比較対照試験ではその傾向は認められたが有意差は得られなかった
‖予後
単相性の経過を示し、発症の2~4週以内に症状はピークに達する。その後症状は軽快し、6~12ヶ月前後で寛解することが多い。しかし後遺症が残る場合もあり、欧米からの報告では、約15%の症例は後遺症で自力歩行ができず、死亡例も約5%存在するとされている。一方平成12年度のわが国の厚生労働省免疫性神経疾患調査研究班の調査では、症状固定時に独歩不能は約10%、死亡例は1%未満という結果であった。
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