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難病特集:原発性胆汁性肝硬変
       


原発性胆汁性肝硬変に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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‖概念定義
原発性胆汁性肝硬変(Primary biliary cirrhosis: PBC)は病因が未だ解明されていない慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である。病理組織学的に慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis:CNSDC)と肉芽腫の形成を特徴とし、胆管上皮細胞の変性壊死によって小葉間胆管が破壊消滅することにより慢性進行性に胆汁うっ滞を呈する。胆汁うっ滞に伴い肝実質細胞の破壊と線維化を生じ、究極的には肝硬変から肝不全を呈する。臨床的には胆汁うっ滞に伴うそう痒感、および自己抗体の一つである抗ミトコンドリア抗体(Anti-mitochondrial antibody: AMA)の陽性化を特徴とし、中年以後の女性に多い。臨床症状も全くみられない無症候性PBCの症例も多く、このような症例は長年無症状で経過し予後もよい。本症は種々の免疫異常とともに自己抗体の一つであるAMAが特異的かつ高率に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群等の自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすいことから、病態形成には自己免疫学的機序が考えられている。

‖疫学
厚生労働省「難治性の疾患」調査研究班の全国調査によると、男女比は約1:7であり、最頻年齢は女性50歳代、男性60歳代である(図1)。1974年わずか10名程度であった発生数が1989年以後250~300名前後を推移している(図2)。年次別有病者数も年々増加し2007年には5000人弱となった(図3)。特定疾患治療研究事業で医療費の助成を受けているPBC患者数(症候性PBC)は2008年度は約16,000人であった(特定疾患医療受給者証交付件数、平成21年3月31日現在)。これに基づくと、無症候性のPBCを含めた患者総数は約5~60,000人と推計される。日本人総人口を1億3千万人(国勢調査)とすると、人口100万対600人、患者がみられる20歳以上(1億3百万人)のみを対象とすると人口100万人対750人となる。
PBC患者年齢構成及び性別
PBC患者年次別発生数
PBC患者年次別有病者数
‖病因
本症発症の原因はまだ不明であるが、自己抗体の一つであるAMAが特異的かつ高率に陽性化し、また、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群等の自己免疫性疾患や膠原病を合併しやすいことから、病態形成には自己免疫学的機序が考えられている。組織学的にも、肝臓の門脈域、特に障害胆管周囲は免疫学的機序の関与を示唆するような高度の単核球の浸潤がみられ、胆管上皮細胞層にも単核球細胞浸潤がみられる。免疫組織学的に、浸潤細胞はT細胞優位であり、小葉間胆管上皮細胞表面にはHLAクラスII抗原の異所性発現がみられ、小葉間胆管上皮細胞表面にはクラスI抗原の発現が増強している、また、接着因子の発現がみられるとともに、AMA(抗PDC-E2抗体など)が認識する分子が小葉間胆管上皮細胞表面に存在するなど、自己免疫反応を特徴づける所見が認められることより、胆管障害機序には免疫学的機序、とりわけT細胞(細胞傷害性T細胞)が重要な役割を担っていることが想定されている。

‖症状
症状は、(1)胆汁うっ滞に基づく症状、(2)肝障害肝硬変および随伴する病態に伴う症状、(3)合併した他の自己免疫疾患に伴う症状、の3つのカテゴリーに分けて考えることができる。病初期は長期間無症状であるが、中期後期になると本疾患に特徴的である胆汁うっ滞に基づく皮膚そう痒感が出現してくる。無症候性PBCでは合併した自己免疫性疾患の病態症状が表面に出ていることも多い。特徴的な身体所見として、そう痒感に伴う掻き疵や高脂血症に伴う眼瞼黄色腫がみられる症例もある。肝臓は初期は腫大していることが多く、進行すれば、萎縮し、黄疸と共に、胃食道静脈瘤、腹水、肝癌等、肝硬変に伴う身体所見が現れる。

特殊な病態ないしは亜型として、次の4つが挙げられる。

1)早期PBC (early PBC)
症状や血液生化学の異常が出現する以前からAMAは陽性を呈し、肝組織の病理学的変化も始まっていることが観察されており、早期PBCと称されている。治療は必要とせず、経過観察を行う。  

2)自己免疫性胆管炎(Autoimmune cholangitis, Autoimmune cholangiopathy: AIC) 臨床的にはPBCの像を呈しながらAMAは陰性、抗核抗体(ANA)が高力価を呈する病態に対し、1987年にBrunner & Klingeによって最初にImmunocholangitisという名称で提唱された。その後同様の病態に対し、autoimmune cholangiopathy,primary autoimmune cholangitis,autoimmune cholangitis等の名称で提唱されたが、現在ではPBCの亜型とする考え方が一般的である。UDCAの効果がみられない場合は、副腎皮質ステロイドの投与が奏効する。

3)AMA陰性PBC
AMAは陰性であるが、血液所見で慢性の胆汁うっ滞像がみられ、肝組織像でPBCに典型的な像が得られる場合はPBCと診断される。PBCの診断がなされた症例のうち約10%はAMA陰性である。AMAは陰性であるが、自己反応性T細胞はミトコンドリア抗原に反応しているとされる。PBC典型例と同様に対処する 。

4)PBC-AIHオーバーラップ症候群
PBCの特殊な病態として、肝炎の病態を併せ持ちALTが高値を呈する本病態がある。副腎皮質ステロイドの投与によりALTの改善が期待できるため、PBCの亜型ではあるが、PBCの典型例とは区別して診断する必要がある。
‖診断
我が国では厚生省「難治性の肝疾患」調査研究班(平成22年度)による診断基準(表1)が用いられている。
(1)胆道系酵素(ALP、γ-GTP)優位の肝機能異常を呈する慢性の胆汁うっ滞性疾患である。
(2)原則としてウイルスマーカーが陰性、かつ原因となるような薬剤の服用もない。
(3)画像等により閉塞性黄疸など他の疾患が除外されている
(4)血清中にAMA(蛍光抗体法、ELISA法)が陽性である。
以上の所見が揃えば,ほぼPBCと診断できるが、

1)肝組織においてCNSDCおよび肉芽腫など特徴的所見が認められれば、診断は確実である。しかし、2)組織学的にはCNSDCの所見を認めないがPBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すものでAMAが陽性のもの、あるいは、3)組織学的検索の機会はないがAMAが陽性で、しかも臨床像および経過からPBCと考えられるものもPBCと診断される。

<鑑別診断>
まずは、肝炎ウイルスの関与や、薬剤性肝障害、閉塞性黄疸を除外する。CNSDCに類似した胆管障害像は、原発性硬化性胆管炎(特に肝内型)、薬剤起因性肝内胆汁うっ滞、成人性肝内胆管減少症、移植片対宿主病(GVHD)、肝移植拒絶反応、サルコイドーシスとともに、自己免疫性肝炎でも認められる。C型肝炎、自己免疫性肝炎でも胆管障害は生じるが、原則として破壊性変化ではない。自己免疫性胆管炎、PBC-AIHオーバーラップ症候群、AMA陽性自己免疫性肝炎等、PBCに類似した病態や、典型的PBCの病像に一致しない病態との判別を行う。
表1.原発性胆汁性肝硬変の診断基準(平成22年度)
「難治性の肝胆道疾患に関する調査研究」班
原発性胆汁性肝硬変分科会

概 念
原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis,以下PBC)は,病因病態に自己免疫学的機序が想定される慢性進行性の胆汁うっ滞性肝疾患である.中高年女性に好発し,皮膚掻痒感で初発することが多い.黄疸は出現後,消退することなく漸増することが多く,門脈圧亢進症状が高頻度に出現する.臨床上,症候性(symptomatic)PBC(sPBC)と無症候性(asymptomatic)PBC (aPBC)に分類され,皮膚掻痒感,黄疸,食道胃静脈瘤,腹水,肝性脳症など肝障害に基づく自他覚症状を有する場合は,sPBCと呼ぶ.これらの症状を欠く場合はaPBCと呼び,無症候のまま数年以上経過する場合がある.sPBCのうち2mg/dl以上の高ビリルビン血症を呈するものをs2PBCと呼び,それ未満をs1PBCと呼ぶ.
1. 血液生化学検査所見
症候性,無症候性を問わず,血清胆道系酵素(ALP,γGTP)の上昇を認め,抗ミトコンドリア抗体(antimitochondrial antibodies,以下AMA)が約90%の症例で陽性である.また,IgMの上昇を認めることが多い.
2. 組織学的所見
肝組織では,肝内小型胆管(小葉間胆管ないし隔壁胆管)に慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis,以下CNSDC)を認める.病期の進行に伴い胆管消失,線維化を生じ,胆汁性肝硬変へと進展し,肝細胞癌を伴うこともある.
3. 合併症
慢性胆汁うっ滞に伴い,骨粗鬆症,高脂血症が高率に出現し,高脂血症が持続する場合に皮膚黄色腫を伴うことがある.シェーグレン症候群,関節リウマチ,慢性甲状腺炎などの自己免疫性疾患を合併することがある.
4. 鑑別診断
自己免疫性肝炎,原発性硬化性胆管炎,慢性薬物性肝内胆汁うっ滞,成人肝内胆管減少症など
診 断
次のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する.
1)組織学的にCNSDCを認め,検査所見がPBCとして矛盾しないもの.
2)AMAが陽性で,組織学的にはCNSDCの所見を認めないが,PBCに矛盾しない(compatible)組織像を示すもの.
3)組織学的検索の機会はないが,AMAが陽性で,しかも臨床像及び経過からPBCと考えられるもの
‖治療
確立した根治的治療法はないため対症的治療にとどまるが、病期病態に応じた対策が必要である。初期から中期では免疫反応による炎症と胆汁うっ滞に対して、胆汁うっ滞が持続すると胆汁うっ滞に基づく症状と合併症に対して、肝硬変に至ると肝硬変に伴う門脈圧亢進症、腹水、脳症等の合併症に対しての治療が必要となる。
ウルソデオキシコール酸(UDCA)は現在第1選択薬とされており、初期から投与される。1日量で通常600mg、効果が少なければ900mgまで増量できる。90%の症例では胆道系酵素の低下がみられるが、進行した症例では効果が期待できない。我が国では、最近はUDCAとともに、高脂血症薬のひとつであるベザフィブラートも有効とされている。作用機序はUDCAと異なるためUDCAとの併用が勧められるが、本症に対しての保険適応はなされていない。
PBC-AIHオーバーラップ症候群で肝炎の病態が強い場合や、自己免疫性胆管炎(AIC)の初期には副腎皮質ホルモンが併用される。
経過観察は、3~4か月に一度、肝機能、血清免疫学的検査を行う。症候性PBCでは、胆汁うっ滞に基づく症状、特にそう痒、高脂血症とビタミンDの吸収障害による骨粗鬆症に対する治療は重要である。門脈圧亢進症を来しやすく、胃食道静脈瘤は肝硬変に至る前に出現することがあるので、定期的な観察が必要である。進行例では肝癌の併発にも留意する。肝硬変に進展した場合は、腹水、肝性脳症等の合併症に対する対応が必要となる。病期が進むと、内科的治療に限界が生じ肝移植の適応となるが、重症進行例では手術成績も低下するので、血清総ビリルビン値5mg/dlをめどに、肝臓専門医、移植専門医に相談する。移植成績は、5年で約80%と優れている。脳死移植が少ない我が国では既に生体部分肝移植が定着しており、移植成績も欧米の脳死肝移植例と同様に良好である。

‖予後
無症候性PBCは無症候性PBCにとどまる限り予後は大変よいが、約10~40%(5年間で約25%)は症候性PBCへ移行する。黄疸期になると進行性で予後不良である。5年生存率は、血清T.Bil値が2.0mg/dlでは60%、5.0mg/dlになると55%、8.0mg/dlを超えると35%となる。PBCの生存予測に関する独立因子としては、Mayoモデルでは年齢、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、浮腫があげられている。一方、日本肝移植適応研究会では、ビリルビンとAST/ALTである。死因は、症候性PBCでは肝不全と食道静脈瘤の破裂による消化管出血が大半を占めるが、無症候性PBCでは肝疾患以外の原因で死亡することが多い。




    

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