難病特集:大動脈炎症候群(高安動脈炎)
大動脈炎症候群(高安動脈炎)に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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■概念定義
高安動脈炎(大動脈炎症候群)は大動脈及びその主要分枝や肺動脈、冠動脈に閉塞性、あるいは拡張性病変をきたす原因不明の非特異的大型血管炎である。大動脈及びその分枝血管を侵し、その病変の部位や広がりによって多彩な臨床所見を呈する疾患であることから、大動脈炎症候群の名称も広く用いられている。また、上肢血管の消失がよく見られるため、脈無し病とも呼ばれている。
■疫学
最近の厚生省受給者交付数から本邦における患者数は約5,000例と推定される。1:9の割合で女性に発症することが多い。女性の発症年齢を検討すると15歳から35歳を中心に好発する。一方、男性患者では女性で診られるような好発年齢がない。交付数の変動からみると年間100~200名の新規患者が発生している。
■病因
高安動脈炎の発症の機序は依然として不明であるが、感冒様症状が前駆症状として認められることが多く、何らかのウイルスなどの感染が本症の引き金になっている可能性がある。それに引き続いて自己免疫的な機序にて血管炎が進展していることが考えられている。実際にはより多くの例で大動脈炎が生じているが、炎症制御に関わる遺伝要因により一部の例で臨床的に大動脈炎と診断されるような大きな狭窄や閉塞、拡張などを引き起こす炎症へと進展しているのではと考えられている。
高安動脈炎に関する厚生労働省難治性血管炎研究班の報告によると、高安動脈炎患者の約98%は家族歴を有さない。しかしながら、一卵性双生児症例などの存在は、本症発症に相関する遺伝要因の存在を示唆していると考えられる。
本邦においては免疫制御に関わるHLAクラスI分子-B*520との有意な相関が知られている。特にHLA-B52陽性高安動脈炎患者ではB52陰性例に比して有意に強い血管炎を生じる傾向があり、ステロイド投与量がB52陰性例に比較して多量である。さらに本症の予後に大きな影響を与える大動脈弁閉鎖不全症の合併する割合がB52陽性例では増加していることが明らかになっている。
また、男女比を検討すると上述したように1対9と女性に好発することがわかっており、女性ホルモンが何らか本症の進展に関与していることが示唆される。
■症状
高安動脈炎は大動脈とその主要分枝および肺動脈、冠動脈に狭窄、閉塞または拡張病変をきたす原因不明の非特異性炎症性疾患である。本邦では大動脈弓ならびにその分枝血管に傷害を引き起こすことが多い。狭窄ないし閉塞をきたした動脈の支配臓器に特有の虚血障害、あるいは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病態の中心をなす。病変の生じた血管の支配領域により臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する。
本症の初期症状として認められるのは感冒様症状で、発熱、全身倦怠感、易疲労感といったはっきりしない症状である。本症の場合、若い女性に好発するため、また、本症に特異的な診断マーカーがなく、微熱や全身倦怠感が数週間や数ヶ月続くなかで不明熱の鑑別のなかで本症が診断されてくることが多い。本症が全身の炎症所見と血管病変の存在に基づいて診断するため、診断までに時間がかかると考えられる。
臨床症状のうち、最も高頻度に認められるのは、上肢乏血症状である。とくに左鎖骨下動脈が右と異なり直接大動脈弓から分枝しているため、右鎖骨下動脈と比較して血管病変を認める頻度が高い。そのため、左上肢の脈なし、あるいは血圧低値を認めることが多い。自覚的にも易疲労感、しびれ感、また上肢痛や頚部痛を訴えることが多い。高安動脈炎慢性期患者の頚部痛は秋口など季節的な変動があるときに痛みが強くなるケースが多い。
頭部乏血症状は、腕頭動脈、総頸動脈、椎骨動脈などの狭窄、閉塞により生じる。また、急性期の患者では頸動脈などの炎症部に生じた血栓が塞栓として頭部に大きな障害を引き起こすことがある。また、本症の急性期の治療中、強いめまいや失神を認めることがある。これらの中には本症に特徴的な頸動脈洞反射亢進によるものがある。頸動脈洞に大動脈炎が及んだためと考えられるが、経験的にこうした反射の出現は慢性期にはいるとほとんど認められなくなる。
本症の約3分の1に大動脈弁閉鎖不全症の出現を認める。本症の予後に大きな影響を与える。高安動脈炎の血管病変は狭窄、閉塞、あるいは拡張と炎症の程度や解剖学的な要因によって様々だが、上行大動脈病変はほとんどの場合が拡張病変である。高安動脈炎が大動脈弁に及ぶことはほとんどなく、大動脈弁輪の拡大による二次的な閉鎖不全の出現と考えられる。本症に合併する大動脈弁閉鎖不全症は当初、臨床症状を呈することはなく、数年の経過とともに心症状を呈することが多い。また、本症は大動脈弁閉鎖不全症に加え、動脈の狭窄病変や高血圧を伴うため、通常の大動脈弁閉鎖不全症とは異なり、数年の経過とともに著明な左室肥大を認めることが多い。また、頻度は少ないが、冠動脈の起始部に狭窄病変を生じることがあり、狭心症さらには血栓とともに急性の心筋梗塞を生じる場合もある。
本症の診断には大血管の画像診断が有用である。すなわち、造影CT、MRA、頸動脈エコーである。造影CTでは血管の狭窄拡張に加えて動脈壁の肥厚が見られ、炎症の存在診断に役立つ。保険外診療であるが、FDG-PETの取り込みが大動脈の炎症の程度と局在を反映することから診断や治療の効果判定に有用である。
IV-DSA等で検討すると肺動脈病変をかなりの頻度で認めるが、臨床的に肺機能が問題になることは少ない。しかしながら、まれに血痰を訴える例がある。
高血圧は本症の予後と大きく関連する。本症に高血圧が合併する原因として、異型大動脈縮窄、大動脈壁の硬化、大動脈弁閉鎖不全症、腎動脈病変などがあげられる。若年女性に発症することが多いため、その後の予後に大きな影響を与えることになる。
下肢血管病変は腹部大動脈や総腸骨動脈などの狭窄により生じる。本邦の高安動脈炎は大動脈弓周囲に血管病変を生じることが多く、一方、腹部血管病変は少ないため、間欠跛行などの下肢乏血症状を認めることは少ない。
また頻度は少ないが、非特異的な炎症性腸炎を合併することがある。下血や腹痛を主訴とする。しかしながら、病理学的に非特異的炎症性腸炎と診断されることが多い。
■治療
内科療法は炎症の抑制を目的として副腎皮質ステロイドがもっとも多く使われている。血沈、CRPを指標とした炎症反応の強さと臨床症状に対応して継続的に投与される。炎症反応が強い場合は一日量プレドニゾロン45-60mg、または0.8-1.0㎎/㎏で開始する。症状、年齢により適宜決める。
症状や検査所見の安定が4週間以上続けば減量を開始する。20㎎以下からの減量はゆっくりと行う。1.25㎎/月以上の減量が再燃のリスクになるとの報告がある。減量により、症状の増悪を示す場合は、それらを阻止するのに要する最小量を継続投与する。ステロイドを10㎎以下に減量すると、約7割が再燃するとの報告がある。この場合は、免疫抑制剤の併用を検討する。
また易血栓性は重大な合併症を生じるため、抗血小板剤、抗凝固剤が併用される。アスピリン製剤や塩酸チクピジン、シロスタゾールが使われている。
シクロスポリン、シクロフォスファミド、メソトレキセート、アザチオプリン、タクロリムスのいずれかを使用するが、医療保険適応外の医薬品であり、かつ副作用があるので、ステロイド離脱が困難な症例にのみ十分に説明して慎重に使用することが望まれる。
外科療法は特定の血管病変に起因することが明らかな症状で、内科的治療が困難と考えられる症例に適応される。外科的治療の対象になっている症例は全体の約20%である。
脳乏血症状に対する頸動脈再建が行われるのは、1)頻回の失神発作、めまいにより、生活に支障をきたしている場合、2)虚血による視力障害が出現した場合、3)眼底血圧が30mmHg前後に低下している場合である。
また、大動脈縮窄症、腎血管性高血圧に対する血行再建術は、1)薬剤により有効な降圧が得られなくなった場合、2)降圧療法によって腎機能低下が生じる場合、3)うっ血性心不全をきたした場合、4)両側腎動脈狭窄の場合である。
さらに、大動脈弁閉鎖不全に対する大動脈弁置換術(Bentall手術を含む)は一般の大動脈弁閉鎖不全症の適応を参考にしながら行っている。必要があれば、本症に起因する狭心症に対する冠動脈再建術を行う場合もある。他の原因による場合の適応に準じる。
いずれも緊急の場合を除いて、充分に炎症が消失してから外科手術を行うことが望まれる。
■予後
MRIやCT、PETによる検査の普及は本症の早期発見を可能とし、治療も早期に行われるため予後が著しく改善しており、多くの症例で長期の生存が可能になりQOLも向上してきている。予後を決定するもっとも重要な病変は、腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧、大動脈弁閉鎖不全によるうっ血性心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、解離性動脈瘤、動脈瘤破裂である。従って、早期からの適切な内科治療と重症例に対する適切な外科治療によって長期予後の改善が期待できる。
高安動脈炎は若い女性に好発するため、妊娠、出産は問題となるケースが多い。炎症所見が無く、重篤な臓器障害が認めず、心機能に異常がなければ基本的には可能と考えられる。しかし一部の症例では出産を契機として炎症所見が再燃し、血管炎の再燃が考えられる症例が認められる。
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