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難病特集:HTLV-1関連脊髄症(HAM)
       


HTLV-1関連脊髄症(HAM)に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
関連病気:



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‖概説


HTLV-1-associated myelopathy (HAM)は、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるHuman T lymphotropic virus type 1 (HTLV-1)のキャリアにみいだされた慢性進行性の痙性脊髄麻痺を示す一群として、1986年に日本から提唱された疾患単位である。一方、カリブ海諸国で熱帯性痙性麻痺(Tropical spastic paraparesis: TSP)患者の6割にHTLV-1陽性者がいることが明らかとなり、HTLV-1陽性TSPとHAMは同一疾患としてHAM/TSPと呼称することがWHOから提唱されている。その臨床像病理像の確立、発症病態の分子機構について我が国を中心に精力的に解析がすすめられている。HTLV-1感染に関連する疾患が種々報告されているが、HTLV-1キャリアの大多数は生涯にわたってATLやHAMなどを発症しない。


‖疫学


患者は西日本を中心にHTLV-1感染者の多い九州四国、沖縄に多いが、全国的に分布しており、東京や大阪など、人口の集中する大都市では九州に匹敵する数の患者が見いだされている。全国疫学調査が2007年,2008年の2年間に通院,入院したことのあるHAM患者を対象に,神経内科診療施設を対象に施行された。有病率が人口10万人あたり約4人と想定される筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者数との比較より,全国でおよそ3000人余りのHAM患者がいるものと推定された.患者の分布は九州沖縄地方で52.0%を占めていたが,関東15.4%,近畿地方15.9%と大都市圏でも多くのHAM患者が集計され,前回調査と比較して大都市圏での比率の増加が明らかであった.この10年、毎年実数として30人前後の発症が確認されており、毎年一定の割合で新規に発症していることが示されている。抗体陽性者が生涯にHAMを発症する可能性は日本では0.25%と報告されている。世界的にみても、HTLV-1キャリア、ATLの分布と一致してカリブ海沿岸諸国、南アメリカ、アフリカ、南インド、イラン内陸部などに患者の集積が確認されており、それらの地域からの移民を介して、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国など、世界的に患者の存在が報告されている。HTLV-1の感染経路として母乳を介する母子間垂直感染と、輸血、性交渉による水平感染が知られているが、そのいずれでもHAMは発症し、輸血後数週間で発症した例もある。感染後長期のキャリア状態を経て発症するATLとは異なっている。輸血後発症するHAMの存在の指摘をうけて、1986年11月より日赤の献血に抗HTLV-1抗体のスクリーニングが開始され、以後、輸血後発症がなくなった。発症は中年以降の成人が多いが、10代、あるいはそれ以前の発症と考えられる例もある。男女比は1:2.0-2.5と女性に多く、男性に多いATLと対照的である。


‖病因


HTLV-1感染が一義的に原因であるが、感染者のごく一部にのみ発症する機序はわかっていない。患者脊髄は胸髄全長にわたって萎縮しており、病理組織所見ではリンパ球マクロファージの浸潤による慢性炎症が胸髄中下部に強調されてみられる。炎症周囲の脊髄実質の軸索、髄鞘の崩壊変性がみられる。HTLV-1は脊髄に浸潤しているTリンパ球のみに感染しており、その量に比例して炎症が強い。また、脊髄炎症巣でHTLV-1抗原はリンパ球に発現しており、免疫応答のターゲットとなっていると考えられる。HAMの発症機序として、感染Tリンパ球が脊髄に浸潤し、その場でウイルス抗原を発現することにより、感染リンパ球を排除しようとするウイルス特異的免疫応答が生じ、その炎症反応に巻き込まれて周囲の脊髄組織が傷害されていると考えられている。


‖症状


初診時の主訴は下肢のつっぱり感による歩行障害が多い。頻尿、排尿困難、尿失禁、あるいは慢性の便秘などの排尿排便障害を伴っていることが多い。急性の尿閉で受診し、HAMが診断される例もある。感覚障害は運動障害に比して軽度にとどまる例が多く、しびれ感や痛みなど、自覚的なものが多い。その他、進行例では下半身の発汗障害や起立性低血圧によるめまい、インポテンツなど、自律神経症状もみられる。これらの症状はいずれも脊髄の傷害を示唆するものであり、HAMの中核症状となっている。それに加え、手指振戦、運動失調、あるいは軽度の痴呆を示し、病巣の広がりが想定される例もある。しかし、そのような症例でも中核症状としての両下肢痙性不全麻痺は共通に認められる。
通常、症状は緩徐進行性で慢性に経過するが、亜急性に進行し、数週間で歩行不能になる例もみられる。高齢での発症者で進行度が早い傾向があり、重症例では両下肢の完全麻痺と体幹部の筋力低下により座位が保てなくなり寝たきりとなる例もある。一方で、運動障害が軽度のまま長期にわたり症状の進行がみられない例も多い。上肢の完全麻痺や嚥下発声障害などの球症状を来たす例はほとんどみられない。


‖臨床


神経理学所見は特徴的で診断に重要である。中核となるのは緩徐進行性の両下肢痙性不全麻痺で、両下肢の筋力低下と痙性による歩行障害がみられる。筋力低下、特に腰腿筋、傍脊柱筋の筋力低下がみられることは、痙性のみが全面にでる家族性遺伝性の痙性麻痺とは異なっている。神経理学所見として膝蓋腱反射、アキレス腱反射は亢進し、腹壁反射は消失する。また、バビンスキー徴候を初めとする病的反射が下肢で明瞭にみられる。通常、両上肢は筋力低下などの自覚症状を欠いているが、深部腱反射は軽度亢進していることが多く、ワルテンベルグ徴候などの病的反射がしばしば陽性である。しかし、下顎反射の亢進は通常みられない。感覚障害についてはレベルのはっきりしない下半身の表在覚低下がみられるが、運動障害に比して理学所見上は軽度にとどまる例が多い。自他覚的に感覚障害に乏しい例でも外果部での振動覚低下を指摘できることが多い。進行例では起立性低血圧や下半身の発汗障害などの自律神経徴候も認められる。
HAMの診断は特徴的な臨床徴候と血清髄液の抗HTLV-1抗体陽性によりなされる。髄液は軽度の蛋白、細胞数の増加がみられ、核の分葉化したリンパ球がみられる例もある。髄液ネオプテリンは高く、活動性炎症を反映していると考えられ、その変動は病勢の把握に重要である。末梢血単核球中のプロウイルス量は健常キャリアーに比し高値で、その変動は病勢と連動している。画像診断ではMRIで通常、胸髄を中心に瀰漫性に萎縮した像が得られ、局所性病変はみられないが、発症後間もない症例で瀰漫性の腫大やT2強調画像での髄内の強信号像が報告されている。一方、大脳のMRI T2強調画像で深部白質の異常信号像がみられる例があり、病変の広がりを反映している。他の画像診断を含め、脊髄腫瘍などの鑑別に有用である。電気生理学的検査では、脊髄障害を反映する下肢SEPでの中枢伝導障害の所見がみられる。また、傍脊柱筋の針筋電図で軽度の脱神経所見が見られるのが特徴的で、髄内神経根、あるいは脊髄前角の傷害を示している。


‖治療


HAMの病態に対応した治療が重要で、明らかな症状の進行がみられ、髄液ネオプテリン高値、末梢血中プロウイルス高値などの指標より炎症の活動期と判断される例では、過剰な免疫応答を調整する免疫療法や抗ウイルス療法が必要である。一方、炎症の活動性がほとんどないと考えられる例では、痙性や排尿障害に対する対症療法や、継続的なリハビリテーションが推奨される。活動期の治療として、副腎皮質ホルモン剤がもちいられるが、むやみに大量投与や長期間継続することは避ける。副作用、特に高齢者、女性の骨粗鬆症による骨折には十分注意が必要である。インターフェロンαはHAMに対して唯一医療保険適応となっている薬剤であるが、やはり、副作用に十分注意する必要がある。発熱やうつ状態による長期間の活動性低下は運動機能の低下につながる。一方、非活動期の治療は痙縮や排尿障害に対する対症的な薬物療法やリハビリテーションが重要で、腰帯筋傍脊柱筋の筋力増強やアキレス腱の伸張により、歩行の改善が得られる。間歇自己導尿の導入により外出への不安解消や夜間頻尿による不眠の改善など、ADLの改善が期待される。


‖ケア


下半身の発汗障害は体温調節機能の低下につながり、夏場、高温による熱中症対策が必要である。


‖食事栄養


特に制限等の必要はないが、肥満は下肢機能の低下によるADLの低下に、低栄養は褥瘡の遷延化につながる。


‖予後


通常は緩徐進行性で慢性に経過するが、進行が早く数週間で歩行不能になる例もみられる。高齢での発症で進行度が早い傾向があり、重症例では両下肢の完全麻痺、体躯の筋力低下による座位障害で寝たきりとなる。一方で、運動障害が軽度のまま長期にわたり症状の進行がほとんどみられない患者も多い。上肢の完全麻痺や嚥下や発声障害などの球麻痺を来す例はほとんどなく、基本的に生命予後は良好である。ただ、転倒による大腿骨頸部骨折、尿路感染の繰り返しや褥瘡は予後不良の因子として重要である。






















    

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