難病特集:抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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■概念定義
抗リン脂質抗体(aPL)には、抗カルジオリピン抗体(aCL)、ループス抗凝固因子(LAC)、ワッセルマン反応(STS)偽 陽性などが含まれるが、これらの抗体を有し、臨床的に動・静脈の血栓症、血小板減少症、習慣流産・死産・子宮内胎児死亡などをみる場合に抗リン脂質抗体症 候群(APS)と称せられる。全身性エリテマトーデス(SLE)を始めとする膠原病や自己免疫疾患に認められることが多いが(続発性)、原発性APSも存 在する。また、多臓器梗塞を同時にみる予後不良な病態はcatastrophic APSと称せられる。原因は末だ不明である。
■疫学
未だ全国的疫学調査が施行されていないので本邦における患者数は不明である。厚生省特定疾患系統的脈管障害調査研究班と自己免疫 疾患調査研究班の共同研究による調査(1989)では、aPLは膠原病、特にSLEに陽性率が高い。その他の疾患や病態では、特発性血小板減少性紫斑病、 自己免疫性溶血性貧血、反復性血栓性静脈炎、心筋梗塞を含む冠動脈疾患、高安病、臓器梗塞、脳神経障害、習慣流産・死産、などに認められている。膠原病や 自己免疫疾患以外にも、悪性腫瘍や感染症(梅毒、AlDS、肝炎、伝染性単核症など)、薬剤(クロルプロマジン、プロカインアミド、ヒドララジンなど)、 血液疾患などで陽性をみることが知られている。HLAクラス IIとの関連では、SLEにおいてDR7、 DR4、DR9(DRB1 0901)、DQ7など、原発性においてはDR53、DR5、DR52などが報告されている。
■特性
aPLは多様性を示し、特定の抗原認識部位に反応する特異性の高いものから陰性荷電を有する幅広い酸性リン脂質に反応するものまで含まれる。更に、抗体を有していても無症候性の症例も存在し、すべてが病因的抗体であるかどうか不明な点も多い。
(1)aCL
aCLにはβ2-glycoprotein 1(β2‐GP1)依存性の抗体(タイプA) と非依存性の抗体(タイプB)が存在する。前者はリン脂質依存性血液凝固を抑制するが、後者は抑制しない。両者はELlSA法で測定される。SLEを始め とする自己免疫疾患ではタイプAが多く認められるが、感染症ではタイプBが認められる。認められるaCLの免疫グロブリンクラスはIgG、IgM、IgA であるが、臨床症状と相関するのは多くはIgGである。
(2)LAC
LACは主にIgGに属する自己抗体で、凝固系のカスケードの中で第X因子、第V因子、Ca、リン脂質からなるいわゆるprothrombin activator complexに作用し、活性化部分トランボプラスチン時間(APTT)の延長をもたらす。LACの測定は、APTT又はカオリン凝固時間のmixing test、希釈ラッセル蛇毒時間、血小板中和試験、hexagonal testなどで行われる。aCLとLACは必ずしも同一患者血清中に両者が検出されるわけではない。一般にLAC陽性患者の50~60%はaCLを有す る。
(3)STS
ワッセルマン反応は、抗原としてトレポネーマを用いる方法と、 CL、ホスファチジルコリン、コレステロールの組成を用いる方法があるが、STS偽陽性の血清は、後者を抗原とした場合に陽性を示し、前者では陰性を示 す。β2-GP1依存性のaCL測定系でaCLを測定すると、むしろ抗体価の減少をみ、自己免疫性疾患でみられるβ2‐GP1依存性aCLと反応性を異に する。しかしながら、LACと有意の正の相関を示し、APSの臨床病態をみることも多い。
■機序
aPLはAPTTの延長をもたらすが、臨床的には凝固亢進し、血栓症 をきたす。その機序は不明であるがいくつかの仮説が出されている。それらは、リン脂質依存性凝固反応を抑制的に制御しているβ2‐GP1を阻害する、プロ テインCの活性化を阻害する、血管内皮細胞上のトロンボモジュリンやヘパラン硫酸を阻害ないし障害する、凝固抑制に働く血管内皮細胞からのプロスタサイク リン産生を抑制する、血管内皮細胞からのvon Willebrand因子やプラスミノゲンアクティベータインヒビターの産生放出を増加させる、などである。
■症状
aPLは、動静脈血栓症、自然流産・習慣流産・子宮内胎児死亡、血小板減少症などと相関する。また、クームス抗体陽性をみる自己 免疫性溶血性貧血やEvans症候群をみることもある。関連する主な症状を表1に示す。これらは、SLEや自己免疫疾患に限らず幅広い疾患にまたがって認 められる。急速に多発性の臓器梗塞をきたすcatastrophic APSでは、強度の腎障害、脳血管障害、ARDS様の呼吸障害、心筋梗塞、DlCなどの重篤な症状をみる。
表1.抗リン脂質抗体症候群にみられる症状
1.血栓症
<静脈系>
血栓性静脈炎、網状皮斑、下腿潰瘍、網膜静脈血栓症、肺梗塞・塞栓症、血栓性肺高血圧症、Budd-Chiari症候群、肝腫大など。
<動脈系>
皮膚潰瘍、四肢壊疸、網膜動脈血栓症、一過性脳虚血発作、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、疣贅性心内膜炎、弁膜機能不全、腎梗塞、腎微小血栓、肝梗塞、腸梗塞、無菌性骨壊死など。
2.習慣流産、自然流産、子宮内胎児死亡
3.血小板減少症
4.その他
自己免疫性溶血性貧血、Evans症候群、頭痛、舞踏病、血管炎様皮疹、アジソン病、虚血性視神経症など。
■治療
続発性のAPSでは、原疾患に対する治療とともに抗凝固療法を行う。原発性の場合には抗凝固療法が主体となる。抗凝固療法は、抗 血小板剤(アスピリン少量、塩酸チクロピジン、ジピリダモール、シロスタゾール、PG製剤など)、抗凝固剤(ヘパリン、ワルファリンなど)、線維素溶解剤 (ウロキナーゼなど)などを含み、病態に応じ選択される。
ステロイド剤と免疫抑制剤は、基礎疾患にSLEなどの自己免疫疾患がある場合や、catastrophic APSなどに併用さ れる。これらの免疫抑制療法はaPLの抗体価を低下させるが、ステロイド剤の多量投与は易血栓性をみるため注意が必要である。その他、病態に応じ血漿交換 療法やr-グロブリン療法が併用される。
■予後
予後は、侵される臓器とその臨床病態による。多臓器梗塞をみるcatastrophic APSは予後不良である。
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