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発作性夜間のヘモグロビン尿症に対する漢方医学漢方薬の効果と経験症例
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概要定義


発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、PIG-A遺伝子に後天的変異を持った造血幹細胞がクローン性に拡大した結果、補体による血管内溶血を主徴とする造血幹細胞疾患である。再生不良性貧血を代表とする造血不全疾患としばしば合併相互移行する。血栓症は本邦例では稀ではあるが、PNHに特徴的な合併症である。PNHは、昭和49(1974)年に溶血性貧血が特定疾患に指定されたことに伴い研究対象疾患として取り上げられ、「溶血性貧血調査研究班」(班長 三輪史朗)によって組織的な研究が開始された。それから今日に至る35年以上にわたって歴代班長により疫学、病因、病態、診断、治療、予後など幅広い領域に関する調査研究が重ねられてきた。


■疫学


厚労省の平成10年度疫学調査班(大野班)の層化無作為抽出法によるアンケート調査によると、わが国におけるPNHの推定有病者数は430人であった。発症頻度に関しては、中国で17,600,344人の住人に対して1975年から1984年の10年間にわたり追跡された調査によると、この間に22名がPNHを発症し、100万人あたりの発症頻度は1.2人(range: 0-2.8)、罹患率は6.93人と推定された。男女比はほぼ1:1である。診断時(初診時)年齢は、特発性造血障害に関する研究班の共同研究「PNH患者における臨床病歴と自然歴の日米比較調査」のデータによると、45.1歳(range:10-86)であった。診断時年齢分布は、20~60歳代に多くまんべんなく発症する。欧米例ではヘモグロビン尿、血栓症といったPNHの古典的症状が前面に出やすいのに対し、アジア例ではむしろ造血不全症状が主体である。


■病因


PNH赤血球では、glycosyl phosphatidylinositol(GPI)を介して膜上に結合する数種の蛋白が欠損している。補体制御蛋白もそのような蛋白の1つでありPNH赤血球で欠如しており、感染などにより補体が活性化されると、補体の攻撃を受けて溶血がおこるいる。この異常は、GPIの生合成を支配する遺伝子であるPIG-A遺伝子の変異の結果もたらされることが明らかにされた。すなわち、PNHは造血幹細胞の遣伝子に後天性に生じた変異に起因するクローン性疾患である。


■症状


PNHの症状は多彩で、ヘモグロビン尿、血栓症等PNH特有の症状と、再生不良性貧血(AA)に代表される造血不全症状の二面性を持ち合わせており、その程度とバランスは症例ごとにまちまちである。PNHに特徴的な肉眼的ヘモグロビン尿は必ずしも全症例で常に認められるわけではなく、日米比較調査によると、診断時にヘモグロビン尿を呈する症例は全体の1/3であった。PNHは汎血球減少を呈することが多く、骨髄も低形成の傾向を示しやすく、また再生不良性貧血がその経過中にPNHへの移行を示すことがある。出血傾向のほかに深部静脈血栓症や易感染性による症状にも注意が必要である。嚥下障害、男性機能不全、原因不明の腹痛等もPNHに特徴的な症状であり、これらの症状が溶血に起因している機序が明らかとなってきた。


■臨床


診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球の検出が必須である。年に1回程度のフォローアップ検査が推奨される。非常に稀な疾患であり、新規治療薬(エクリズマブ)の適応、妊娠時の管理にあたっては、専門医の意見も参考にして頂きたい。


■治療


骨髄移植により異常クローンを排除し、正常クローンによって置き換えることが、現在のところ唯一の根治療法であるが、明確な適応基準はない。これまでは、血栓症、反復する溶血発作、重篤な汎血球減少症を呈する重症例などに施行されてきた。したがって、血管内溶血、骨髄不全および血栓症に対する対症療法が主体となる。溶血発作に対しては、感染症等の発作の誘因を除去するとともに、必要に応じ副腎皮質ステロイドにより溶血をコントロールする。遊離血色素による腎障害を防止するため積極的に輸液による利尿をはかりつつ、ハプトグロビンを投与する。慢性溶血に対しては、補体第5成分に対する抗体薬(エクリズマブ)が開発され、溶血に対する劇的な抑制効果が示されている。骨髄不全に対しては、再生不良性貧血に準じた治療を行うが、軽度の骨髄不全を伴うことが多く、蛋白同化ホルモンが汎用される。溶血であれ骨髄不全であれ貧血に対しては、必要があれば輸血を行うが、従来推奨されてきた洗浄赤血球輸血は必ずしも必要ではない。血栓症の予防と治療にヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行う。エクリズマブによる血栓予防効果も一部では示されており、今後PNHの治療戦略は大きく変わっていくものと思われる。


■予後


PNHは極めて緩徐に進行し、溶血発作を反復したり、溶血が持続したりする。骨髄低形成の進行による汎血球減少と関連した出血(1/4)と感染(1/3)が主な死因となる。静脈血栓症もみられるが、欧米に比し我が国では頻度が低い(10%以下)。稀に白血病への進展も知られる(3%)。発症/診断からの長期予後は、平均生存期間が32.1年、50%生存が25年であった。PNHでは自然寛解が起こり得るというのも特徴の一つであるが、その頻度は、日米比較調査によると5%であった。エクリズマブの登場により、今後は予後が改善することが期待される。





    

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